すばらしいCB魂
ようやく空が夕暮れの長い光の波長に変わり、そしてゆるやかなオレンジ色から、徐々に色を落とし始めていた。波は相変わらず静かで、ついさっきまで母親と娘の親子連れが子犬を散歩につれてきて、浜辺でじゃれて遊んでいた。
8Chはノイズもなく静かな状態になりつつあった。19時をとうに回り、CV22局を最後に、チャンネルのざわめきが落ち着くとともに、QSO可能な程の信号はほとんど聞こえなくなってくる。それでも1分おきぐらいにCQを出していると、2、3局程度がまだ応答してくれているらしいことがわかる。ただし、なにやらムニャムニャと聞こえるだけで、どうしてもコールサインは聞き取ることができない。一局だけ「アルファー」クエスチョン局が、なんとか取れそうなので、もう一度コールサインを長めに・・・・と、格闘するのだがどうしても取りきれない。
日も落ちて、目の前に見えている鳩間島の灯台が、そろそろ明るく輝き始めていた。再びCQを出していると、それでもあのアルファー局が呼んでくれているようだ。どうやら、とうとう一局だけになったようだ。CQを出すたびに呼んでくれているのだが、どうしても取りきれない。そんな状態が20分?程度続いていた。1エリアでもまだ聞こえている局があるのかなぁ、と思いつつ、それでもCQを出す度に取れないの連続で、余りに呼んでいる局が気の毒なので、CQを出す間隔を5分程度に空けてみることにする。
当局が、19:30を超えて浜辺で粘っているのは、FのHF伝播では、日没前後の時間帯をDXに利用するのが常套手段なのと、昨日19時をこえてから、Es伝播の方では本土内で東北方面が開けていたようなので、今日はひょっとしたら沖縄からも東北と開けるかもしれないと思ったからである。
しかし、8Chはかなり静まり始めていた。ノイズもほとんどなくなり、ワッチしているとむしろ気持ち良いくらいだが、逆に侘しい気もしてくるから、複雑だ。
よっこいしょと腰をあげ、87R片手に膝まで波に浸かり、時間を空けてからCQを出してみる。すると、やはりさっきの局が呼んでくる。しかし今度はCh内は静か、ダイナミックレンジは広い。合法のQRMもなくなり、信号に集中できる。コンディションが上がり目なのか、気のせいかこの局はさっきより少しだけ聞こえやすくなっている。それでも、少し割れるような、限界ぎりぎりの聞こえ方だ。
「アルファーステーション、もう一度コールサイン、コールサインを長めにお願いします。」
「・・・」「・・・」
「アルファ、アルファですか?」
「・・・」「・・・」
いや、そうではない。確かに「アルファーブラボー」、しかもアルファーブラボー三百いくつと言っている。わずかにではあるが、信号強度が徐々に上がってきているのが分かる。
「アルファーブラボー3百いくつですか?・・・」 さらにコンディションは昇ってくる。
「303。アルファーブラボー303。いたばしアルファーブラボー303!(繰り返し)」
なぬ?????・・・その時背中に電流が走った。いたばしAB303局だ!!
「知床から」と何度も言われている。なんということだ。
コールが取れなかった最初は31程度の入感だったが、QSOに入ってから明らかにコンディションは上り坂だ。
「こちらから41、41、41・・・・」 むこうから51を送ってくるのがはっきり聞こえる。「51QSL、51QSL、51QSL・・・」
ファイナルを送り、その後は脱力感で、放心状態となってしまった。全く信じられない、想定外のQSOだった。
AB303局さんとは、アイボールもしたこともあるし、いたばしロールコールなどで何度もQSO頂き、よく存じ上げてはいるが、個人的に連絡を取り合ったことは一度もない。北海道の知床に移動されていることは、この日に掲示板のQSO情報を見るまで全く知らなかったのである。知床からロールコールをされているようで、当局も昼間までは意識の片隅にあったのだが、夕方になってからはAB303局のことは全く頭の中からすっ飛んでいた(AB303局さん、失礼!)それだけに、全く信じられない思いだった。鳩間島の灯台をぼーっと目に入れたまま、真っ暗な水の中でしばらく呆然と立ち尽くしていた。
単にヘラヘラとCQを出しているだけの当局に比べ、わずかなQSOの可能性にかけて知床まで移動される、AB303局のCBer魂にはただただ敬服するのみである。そして、心から感謝申し上げたい。
(QSO局は最終ページにまとめて掲載しています。)
© Nagoya YK221
2011沖縄