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   夏の空





朱鞠内湖から 


 
湖水の向こうの木々の緑とコントラストになった青空には、もう夏のような雲が浮かんでいる。朱鞠内湖(しゅまりないこ)は、幌加内町にある湖だ。

前述のとおり、北海道は廃線だらけ、留萌から幌延まで走っていたのは羽幌線だが、深川から幌加内を通り名寄まで延びていたのが、深名線だ。1995年に廃線となっているが、ずっとその前から大赤字、むしろよくぞ95年まで生き延びた、という見方もできるかもしれない。

当局も乗った覚えがあるのだが、記憶はさだかではない。深川も名寄もどちらも函館本線と宗谷本線という、いわば基幹路線で最初からつながっている。なぜそこにわざわざ幌加内を通って、さらには人跡未踏のような森林地帯を通って、両駅を結ぶローカルのバイパス的路線が走っているのか当時から疑問ではあったが、それは、この地域もしくは北海道全体の林業や炭鉱業、製紙業といった産業の歴史と紐づけて考えないと、おそらく理解はできないものと思われる。


 

それはこの朱鞠内湖も同じだ。

朱鞠内湖は、前述のように人里離れた人跡未踏のような場所にある。深名線もこの湖畔の目と鼻の先まで来ていた。朱鞠内湖は場所的に自然の湖と思われがちだが、湛水面積が日本一ともいわれる「人造湖」である。地図で見れば一目瞭然、非常に大きな湖だ。

「人跡未踏」と「人造湖」という言葉には相容性はなく、違和感を覚えるが、この湖の生い立ちが製紙のための電力や、木材の確保といった目的だったということを理解すれば、すぐに解消されるだろう。加えて言うと、この人造湖が完成したのは昭和18年、今でさえ人里離れ感Maxなのに、昭和18年となれば、何をかいわんやである。ただし、この朱鞠内湖がある幌加内町の人口は昭和15年頃の1万4千人弱がピークで、現在はその1/10以下である。それは、その頃栄えていた産業の衰退を象徴するものだ。


難しい話はさておき、日曜の午後は、一観光客として朱鞠内湖畔で気持ちよくQRVさせていただこう。朱鞠内湖は人造湖ではあるが、そんなことは微塵も感じさせない。全く自然そのものの、美しい湖だ。しかも、通常、湖にはなかなか水辺にアクセスできるような湖畔はないのだが、誰もが湖水に親しめるような明るい波打ち際があるのである。

到着してすぐ、87Rでクイックチェックすると、どうもコンディションは落ちきる直前のようなきわどい雰囲気だ。しかし、ラッキーなことに、ちばMR21局のCQがかするように飛んできている。速攻で、水際に115を展開、まだ聞こえているMR21局にコールにかかると、なんとか間に合ったようだ。RSは52/52、もう少しいけそうだ。

CQを出してみると、城山湖(相模原市)のナゴヤAB449局からコールが入ってくる。同じ湖つながりだ(笑。城山湖ではみなさん、今日も合同運用だろうか。

しばらくすると、コンディションは落ちきったようで、違法まで静かになった。

リグをシャットダウンして、折りたたみイスに座ったままじっと湖水を眺めていると、水音だけが聞こえてくる。しずかだ。

すべてが、すばらしい場所である。








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