←「
呼んでェ~!
毎日!」8月号。
■今号の特集はCWによるQRPP
・ヴィンテージリグを使用したアナログフィルターの聞き比べもあるようだ。
・「美しい海と無線運用」の南大東島シリーズは今回の(3)で完結の模様。
・「悠Qに時を刻む」シリーズは、創刊号のおおたかどや山に続いて、日本のはがね山JJY送信施設のようだ。
8月号のIt's COTA!! (Cemeteries on the Air)
他の運用記にかまけて、8月号のIt's COTA!!の記事の紹介をサボっていたら、とうとう
例の無線友達
からクレームが入ってきてしまった(笑。もうすぐ9月号が発売される頃合いになってしまうので、無理もありませんが。
まあ、It’s COTA‼については、しばらくは紹介すると約束していたので、今回も紹介しておきます。
◆8月号のIt’s COTA!!は、長野県在住の20代の女性、莉子さんの話のようだ。
It's COTA!!
それは彼女が、地元の大学院に通うため、4年ぶりに東京から松本郊外の自宅に戻ってきたときの話だ。
彼女は高校卒業までアマチュア無線をやっていたので、彼女が戻ってきたとき二階の彼女の部屋は、いわゆるシャック的な雰囲気がそのまま残っていた。無線機やセッティングも4年前のままだ。
窓を開けて久しぶりに部屋に空気を通してみる。春先の北アルプスが日に照らされて白く輝いている。子供のころから見慣れている景色だが、改めて、奇麗だなと思うのである。
その北アルプスに彼は眠っている。あのころは一緒にいるだけで毎日が幸せだった、未来の事なんて何も想像していなかったなぁ、と思うのである。
そして彼女は「帰ってきたよ」と一言だけつぶやいた。
4年ぶりにケーブルをつなげて、高校時代に盛んに使っていた無線機に火を入れてみる。
どうやらアンテナも未だそのまま使えそうだ。もともと、中学生の頃になかば無理やり無線をやらされ始めたのも、彼女が理系の大学に進むことになったのも、アマチュア無線に凝っていた父親の影響だ。その父は2年前に他界した。リグは彼女がそろえたものだが、アンテナやタワーは父親時代からのものだ。
院での勉強が本格化するまでは、少し時間に余裕があるので、夜毎無線機を点けて聴いてみる。局免だけは維持しているが、今更無線を運用する気はないので聞いているだけだが、バンド内をワッチしているとどことなく気分が落ち着いてくる。これも父親の遺伝子か?と勝手に思っている。
暇に任せて連日聴いていたが、ある特徴のある信号が発信されていることに気付いたのは、戻ってから3日目、バンドスコープを眺めていた時のことだ。
周波数はCW帯。基本、上手な方が多いはずだが、この信号の場合は、微妙にドットが長いような気がするし、微妙にドットの間が間延びしているようにも聞こえる。しかも不安定だ。
「縦振り? ・・・Eなの~?、Tなの~?、これってETじゃん!」と彼女は思わず、すっかり馴染んだ東京ことばで苦笑した。
「そうか、宇宙人ね!」
Eのつもりなのか、Tのつもりなのか???微妙な長さで、しかもどれもまちまちなのでよくわからないが、同じ符号らしきものをゆっくりと5回で1セット。1セットごとにかなり時間を空けて出てくる。
彼女は一応上級だが、最初からCWはやっていないのでCWは素人だが、それにしても彼女から見ても明らかに怪しい信号だ。この不安定で不器用な感じからすると、初心者がCWの練習でもしているのか??いたずらなのか??そもそもCQはおろかコールサインの送出もない。その時点で既にアウトだが、でも、なんとなく気になる。ただ10分もすると何も聞こえなくなってしまった。宇宙人ではなく、明らかに人為的な操作によるもののようだ。
翌日たまたま、父親と懇意にしていたローカルの局長さんが訪ねてきたので、その局長さんに怪しい信号の話をしてみると、「それじゃ今晩同じ時間に受信しみましょう」ということになった。
その局長さんの話では、アルプスの反射か回折か原因がよくわからないが、雪解けのこの時期だけ、通常では全くあり得ない場所からグランドウェーブの信号が入ってくるようになったので、それと関係があるかもしれないという。季節限定で予想もしなかった回線が開けることは、世間一般では時々聞かれる話だが、この現象はここ2、3年の間に始まった新しい現象らしい。ただ一週間もしないうちに消え失せてすぐになくなってしまうのだという。
4日目、その局長さんの方でもいろいろ試してみるが、結果的にはいくらビームを振ってみても、1時間粘ってみてもあちらでは駄目なようだ。それでも彼女の方にはちゃんと聞こえてくる。不思議なことに信号が受かるのは彼女のリグだけのようなのだ。
5日目、もちろん今日もワッチしてみる。するとやはりいつもと同じ時刻、同じ周波数で聞こえてくる。録音準備も万全だった、父の友達の局長さんからの報告は、今日も「こっちには全然聞こえないよ~」、だった。
6日目、今日も最初は静まり返っていたその周波数だが、いつもの時間になると待ち構えていた彼女のリグに信号が入ってくる。いつもの通りゆったりとしているが、なぜか今日に限ってはこれまでと違ってかなり力強い。しかも、いつもと違って今日はいきなり「J」から入ってきた。
今日こそはなにかコールサインを打つようだ。いったいどんなコールサインなのか??超スローモーションで時間は進んでいく。
固唾をのんで耳を傾けていた彼女だが、アルファベットの最後まできたとき、愕然とする。なんとそのコールサインは、彼女が高校時代から使っているコールサインだ。
二回だけコールサインを繰り返すと、今度はなんと
RIKO
と打ってくるではないか。
そして、一つの同じメッセージを、ゆっくり時間をかけて、染み入るように何度も繰り返し始めた。
そう、それは単なる5つのドットの連続ではなく、一つのメッセージだったのだ。
今度は、いつもきこえてくる符号そのものを筆記していた彼女は、途中から、あるとてつもないことに気付き始めていた。そして、そのメッセージがちょうど10回繰り返されて、とうとう途絶えた時、それはすでに確信に変わっていた。
呆然とする彼女の目から、涙が零れ落ちようとする。
「そんなぁ・・・・。」
ふり絞るような彼女の声が聞こえた。
いつもつないで歩いていた、彼の少しごつごつした大きな手の感触が一瞬で蘇ってくる。これまで完璧に封印していたはずの、彼への思いや思い出が堰を切ってとめどなく溢れ出てきた。彼女の頬をまたひとつ涙が伝った。
それは昨日までと同様、微妙な長さと間合いだったが、昨日までとは打って変わって、どれも正確で安定した、どこか凛としたモールスだった。
彼女の高校時代の彼氏は同じ高校のワンゲル部員だった。帰りは全く時間が違うので、朝は必ず駅から学校まで30分近くの道のりを、手をつないで一緒に登校するというのが当たり前の日課になっていた。
校内にいる間も四六時中一緒にいたので、周りからは「おしどり夫婦」とからかわれて、彼女は恥ずかしい思いをしたこともあったが、ゴーイングマイウェイの彼の方は一向に気にする様子はなかった。もっとも、帰りも一緒に帰りたいという思いは、彼女の方が強かったかもしれない。
彼女は山には興味はないし、彼は無線には興味はない。それでも「共通の趣味を持とうよ~」と、彼に無理やり勧めていたのが、アマチュアの免許だ。彼女が父親から無理やり勧められたように。
ただ、二人の共通項は、意外なところにあった。バンドの「DREAMS COME TRUE」だ。もっとも彼女の方は、ドリカムが好きだった両親に、車の中などでさんざん聞かされて育ったので、妙に詳しくなっただけの話である。彼も最初はお姉さんか誰かの影響だったらしいが、彼の方は大のお気に入りだったらしく、
『一度やってみたいんだよね~、未来予想図!!』
、というのが彼の口癖だった。
『バイクに乗る気はないけどね』
、と最後に付け加わるひと言が、彼女にとっては余計だったのだが。
彼がやってみたかったのは、正確には未来予想図「Ⅱ」の方だ。ただ、バイクでもないなら、あんな大人びた言葉を不器用で口下手の彼が絶対に言うはずがないと、毎日が満ち足りていた彼女は端から期待することもなかったのだった。
彼は地元の大学へ進学が決まったので、地元に残った。しかし彼は入学前に出かけた春先の雪山トレーニングで雪崩にあい、遭難、行方不明になってしまったのである。彼は彼女のことばにしたがって、一応法令集なども買って資格の取得に動き出したところだったようだ。
北アルプスのその山の遭難現場に墓碑が建てられたのは、遭難から1年後のことである。
『バイクがダメなら、モールスで送ってよ。モールスなら、絶対10回ねっ!!』
・・・彼女が東京に発つ前、結果的に最後となったデートで、彼女が冗談交じりに言った言葉だ。
ドリカムの場合は、バイクのブレーキランプを5回灯すだけだが、CWではただの短点の連続なら、単なる「5」だ。
冗談を言った時、彼は何も言わずに微笑んでいた。
彼女は、リグの前に顔を埋めたまま、その時の彼の笑顔を反芻していた。こらえきれない涙がまた一つこぼれおちる。
ようやく、つぶやくように彼に語りかけた。
『使っちゃダメだよ、・・・暗号は。』
『ア・イ・シ・テ・ルは言葉で言ってくれなきゃ。』
(2025/8/7)
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