←「
呼んでェ~!
毎日!」9月号。
■今号の特集はBCL
・オークションなどでは、まだまだ昔のBCLラジオなどが手に入るので、そうしたヴィンテージラジオ自体を楽しむのも面白いかもしれない。
・「美しい海と無線運用」シリーズが終わり、今号から山になったようだ。
9月号のIt's COTA!! (Cemeteries on the Air)
前回は記事の紹介が遅れて例の無線友達からクレームが入ってきたので、今回は、クレームが入ってくる前に載せておこう(笑。
もっとも、例の無線友達は、なぜか「9月号」が出てからというもの、墓参りそっちのけで昔からお気に入りだった707を持ってあちこちに運用に出かけているようなので、例の「アマ損!!事件」からはすっかり立ち直ったようだ。したがって、そろそろ当局も
It's COTA!!
の記事を紹介する義務を免除してもらえそうだ(笑。
ソニー ICB-707
◆9月号のIt’s COTA!!は、岡山県?在住の「麻衣さん」の話のようだ。
It's COTA!!
:
「浜辺の思い」
2025年6月の日曜日、倉敷市内のとあるレストランの中庭でささやかな結構披露パーティーが開かれていた。新郎と新婦の麻衣さんを入れても総勢16名ほどの仲間内だけのパーティーだ。
こうしたパーティーでは、よく二人のなりそめの話で盛り上がる。世間では運命のパートナーとは、出会う前から赤い糸で結ばれているとか言われたりするが、そのことを含めて麻衣さん自身は特段、霊感や奇跡のようなものを信じているわけではない。ただ、彼女の亡くなった弟が旦那になる人に引き合わせてくれたというのは、どうやら客観的な事実のようだ。
彼女が、年下の彼と知り合ったのは、鳥取のとある海岸近くで無線を初めて単独で運用しようとしていた時だ。なぜ、自分が住んでいる場所でもない、実家のある場所でもないところから、無線運用しようとしていたかということについては、それなりのわけがある。
彼女は、あるNHKの番組が好きで毎回見ているのだが、昨年10月に観た放送回のひとつがその後もずっと気になっていた。その番組は、一つの場所に72時間張り付いて、そこに集ってくる人々との会話を通して、人間模様のようなものを浮き上がらせるという、長年人気のあるドキュメント番組だ。
その回の定点観測地は、鳥取の浜辺にある墓地で、お盆にたまたまそこにお墓参りにやってきた人たちとの対話を72時間にわたって追ったものだ。そこはお寺などの付属ではなく、自然発生的にできた墓地だというが、かなり広い敷地の墓地だ。
幾人かでてきた話の中で、彼女の印象に深く残ったのは、日が暮れて暗くなったころ墓参りにやってきた、60歳過ぎの女性の話だった。その女性が言うには、お盆に限らず月命日には、車で1時間近くかけてやってくるのだという。
そのお墓は、30ぐらいで亡くなったその女性の妹の墓だという。その妹さんは小学生のころからずっと病弱だったらしい。
その女性の話では、あるとき姪っ子がたまたまそのお墓参りに訪れたとき、同じような年齢の、真っ赤な服を着た知らない女の子が現れて、ニコッと笑いかけてくれたのだという。
その亡くなった、病弱だった妹が小さい頃よく言っていたのは、赤い服を着て外を出歩きたい、ということだった。きっと、亡くなった妹が小さいころに実現できなかった赤い服を着て、その姪っ子が来た時に現れたものだろうと、その女性は信じているようだった。そんな出来事があったので、やはり墓参りは欠かせないのだ、というのである。
麻衣さんには妹ではないが、6歳年が離れた弟がいた。高3の時、弟はまだ小学校6年生。母子家庭で、夜のシフトがあったりする母親の代わりに、二人だけの朝は、彼女が弟の面倒をみなければならない。
ある日その弟が少し頭が痛いので、今日は学校を休ませてほしい、という。普段からまじめな弟で、仮病など使ったりすることはないのはよく知っていたが、「それぐらいで学校休んじゃダメじゃない」と何も考えずに、学校に行かせたのだった。
弟は体育の時間が終わると、突然倒れて、病院に担ぎ込まれたものの、そのまま亡くなってしまった。原因は今でも正確なところは不明だ。
彼女は、なぜあの時何も考えずに、学校に行けと言ってしまったのか、もしあの時、休ませていたら、医者に連れて行っていたらと、悔やんでも悔やみきれない。なぜ、なぜ、という問いが彼女を深く傷つけた。
自分の浅はかなひと言が、かわいがっていた弟の命を奪ってしまったのだ。それが、自分でもいつまでたっても許せなかった。普段は休ませてほしいなどということはなかったので、本当はかなり調子が悪かったのをがまんしていたのかもしれない・・・いろんな考えが駆け巡り始めると、今でも悔しい思いが際限なくあふれてくる。
弟が亡くなって数日すると、友達がやってきて、これを一緒に供えてほしいという。「これ」、というのは無線のトランシーバーのカタログだった。弟は確かに無線遊びのようなものをやっていたようだったが、誰かにもらった使い古しのトランシーバーは一応持っていたはずだ。ただ、その友達に色々聞いてみると、そのトランシーバーはほとんど使うことはなく、そのカタログを友達に借りては、穴のあくように毎日眺めていたのだという。
弟にそんなに欲しいものがあったとは・・・。弟は何も言っていなかった。家計が苦しかったのは事実だが、そんなこと、生きているうちに言ってくれればよかったのにと思いつつ、彼女はせめてもの罪滅ぼしというわけではないが、弟が欲しくてたまらなかったというその無線機を買って今更ながらプレゼントすることにした。
ただ、事はそう単純ではなかった。すぐにわかったのは、カタログ自体が昔の古いもので、そんな昔のトランシーバーは、とうの昔に販売が終わっていて、もうどこにも売っていないのだ。
世の中のオークションサイトやリサイクルショップには、時々出てくるようだが、程度の悪いものばかりらしい。どうしても新品が欲しかった彼女は母親の友達の知り合い、更にその知り合いとつてをたどり、あちこちの電気店にあたってもらっていた。
3ヶ月ぐらい経ったころ、とうとう母親の知り合いから連絡が入ってきた。少し前に閉店した電気屋さんにデッドストックがあるらしいというのだ。ただいろいろ聞いてみると、それはデッドストックというより、無線もするというその店のおじさんが、大事に取っておいたものらしい。譲ってほしいという唐突な依頼に、おじさんも最初は渋っていたのだが、彼女が直接事情を説明に赴くと最後は快く譲ってくれた。そうやって無線機を買い取り、家の遺影の前には真新しい箱とともにずっと供えつづけられていたのだった。
母親には、アルバイトをして立て替えてもらったお金もちゃんと返した。今から思うと、自分でもあの時の熱量と行動力はすごいものがあったなと思うのである。こうして彼女は正真正銘、自分で、弟に彼が欲しかったというトランシーバーを贈ることができたのだが、もちろんそれぐらいで、彼女の深い後悔は少しも薄れることはなかった。
彼女が無線をやり始めたのはつい最近のことで、その時の事とは特に関係はない。もうすぐ38歳、そろそろおひとりさま的境地に入りつつあるのは自覚しているが、その代わりこれまでのところ、時間はすべて自分が興味を持ったことに使えているのは事実だ。
無線に興味を持ったのは、自宅近くの川べりの堤防を夕方ジョギングする時に、いつもそこで何かやっているおじさんと、たまたま仲良くなったのがきっかけだ。彼女にとっては、おじさんが手にしていたのは妙にアンテナが細長く伸びた、いかにも怪しげな機械だったが、そのおじさんによると、そんなおもちゃのような小型の無線機でも北海道や沖縄まで電波が届くのだという。それは新鮮な驚きだった。それに、北海道などとつながると、いい歳をしたおっさんの顔が少年のように変わるのが、見ているだけで楽しい。
彼女が興味を持ったその無線が、昔弟がやっていたのと同じ市民無線だということに気付いたのは、しばらく後になってからである。
市民無線は資格や免許が要らない。彼女はさっそく最新のリグを手に入れ、おじさんに交信の仕方を教えてもらったり、動画サイトでも使い方を存分に勉強して、あとはいつどこからソロデビューするかというだけになっていた。
彼女が最初のQRVポイントとして選んだ場所は、例のNHKのドキュメント番組で出てきた墓地の近くだ。といっても、車で二時間以上かかるので、わざわざそこをデビュー地にする必然性はどこにもない。番組の中で出てきたあの墓地がずっと気になっていたので、なんとはなしに、そこに行ったついでに試しに出てみようと単純に思っただけである。海の近くというのも無線には好都合に思えた。
彼女がその鳥取の海辺の「お墓参り」を終えたころ、2、3キロ離れた浜辺でアマチュアの撤収作業をしていたのが、後に旦那となる年下の彼だ。
彼が車の脇でアンテナを片付けていると、いつの間にどこからやってきたのか、少年が一人突っ立っている。なぜ一人だけでいるのか分からなかったが、首から無線機のようなものをぶら下げている。どうやら無線に興味があるようだ。一旦アンテナ撤収の手をとめて、一通りアマチュアの無線機の説明などをしてやると、嬉しそうに聴いている。久々に見る子供の目の輝きだ。
聞くと小学校6年生らしい。今どき無線に興味をもってくれる小学生などいないので、彼もつい力が入ってしまったが、もう日暮れなので、そこまで車で送っていくことになった。少年は「近くに待っている人がいる」という。何か事情があって一人でここにやってきてしまった雰囲気だが、母親かだれかが、どこか近くで待っているのだろうと彼は勝手に思い込んだ。
車に乗りこむと恐縮したように姿勢を正して、正面を見据えて、無線機を大事そうに膝の上に載せている。
少年が持っているのはたぶん昔のCB機だ。ただ、オークションサイトなどでよく見る傷だらけのものとは違い、新品同様ピカピカだ。彼はさっきからそれが気になっていた。
「そのリグ、かっこいいよね。」
「ソニー・・・のCB無線機だよね? たしかICB-707って言ったっけ?」
宝物を扱うように膝の上でしっかり無線機を抱えていた少年は、ニコッと嬉しそうに顔を綻ばせた。
彼がアマチュアを始めたのは5年前、市民無線はやったことはないし、関心もないが、それがソニーが昔製造していたCB機だということくらいはわかった。時々オークションサイトで見かけるそのリグは、大昔のリグなのに、今でもずいぶんと高値で取引されているからだ。
それは、海岸の堤防沿いの細い直線道路に入ろうと、一時停止から発進しようとしたときだ。少年は急にそこで降ろしてほしい、という。街灯や人通りはまったくないが、確かに向こうの方の路肩のあたりにぼんやりと明かりが一つ見える。車が一台停まっているようで、誰かを待っているように見える。
やはり母親との間で、何か事情がありそうな雰囲気だ。彼が路肩に停めると、少年は勝手に車を降りて、突然「お願いがあります」という。今までのおとなしい様子とは打って変わって大きな声だ。そして、二つ伝言を頼むと、ドアを閉めて、トコトコと歩き出した。
「伝言って???」
彼には全く意味不明だ。なんのことか聴こうとする間もなく、ヘッドライトに道端を歩いていく彼の姿が照らし出される。
ふとカーナビに目を落とすと、なぜか止まっているはずの自分の位置が、ぐるぐると動き回っている。ディスプレイにタッチすると直ったが、もう一度視線を正面に戻すと、今までライトに照らし出されていた少年の姿が消え失せている。
「えっ」、とハイビームにしてみても、何も映らない。「そんな馬鹿な」、と道路の端をゆっくり車を進ませていっても人影は全く見当たらない。この一直線の道路は、すぐ左側の斜面の下が用水路、右側は腰のあたりまで防潮堤のようにコンクリートが続いており、すぐに少年の姿が見えなくなるような場所ではない。
100m近く進んでくると、確かに路側の駐車帯に車をとめて、車の脇で何かやっている女性らしい姿が見える。
「あのう、小学生ぐらいの男の子が来ませんでした?」
「あなたのお子さんじゃないですか?」
いきなり失礼なことを言う人だなぁ・・・それが、彼女の彼に対する最初の印象だ。
「私、結婚なんかしてませんけど!」
彼女は、つい、つっけんどんな言葉を返してしまった。まるで会話になっていなかったと気づいたのは後になってからだ。ただでさえ周りから、結婚とか子供とか普段から余計な言葉を浴びせられて、うんざりしていたのだ。
しかし、そんな不愛想な言葉には、彼は全く無頓着だった。
「あれっ!!無線ですか!?」
車のルーフに乗った無線機を見て、彼は、母親も無線をする、無線一家だと思ったらしい。
「小学生くらいの子供から、何か、わけのわかんないこと言われまして。伝えてほしいとか言われたんですけど・・・」
「『もう、僕のことは気にしないで・・・』、とか、『無線機を買ってくれてどうもありがとう、嬉しかった・・・』、とか。」
なぜか、閃光のように彼女の脳裏に弟の姿が蘇った。
「えっ、なんですって!!どんな子供ですか?」
「普通の男の子ですけど、トランシーバー持ってましたよ。そうそう、靴はサッカーのトレーニングシューズを履いてましたね。3本線のアディダスの。子供の頃僕も同じのを履いていたんで。」
今でも未だそんな靴が売っているのかと彼は不思議だったらしいが、少しくたびれた、そんな感じの靴を弟がいつも履いていたのを、彼女はよく覚えている。それは、まさしく彼女の弟だった。
彼女は今でももちろん赤い糸なんて信じていないし、霊感のようなものも特段信じているわけでもない。その墓地に来たのは番組で女性が語っていた赤い服の女の子の話が気になったので、単純にその場所に行ってみたいと思ったから行っただけだ。無線機を持って出かけてきたのも、弟とは一切関係なく、街中の河川敷より、何もない誰もいない海辺の方が最初に電波を飛ばすにはちょうどいいだろうと思った程度だ。
一方で、彼のドラレコの映像に何か少年の姿が記録されていたわけでもないし、後から実家の母親から聞いた話では、弟に昔贈ったトランシーバーの箱の中身がいつのまにか空っぽになっていたというのも事実だ。そして、彼は昔の写真を見てすぐに弟を言い当てた。
弟がそこにやって来てくれたとするなら、なぜ直接会いに来てくれなかったのだろう・・・というのが、唯一彼女に残された疑問だった。
彼と付き合い始めてすぐのころ、その疑問を彼にぶつけたことがある。年末に彼と一緒に二人で、NHKが例のドキュメント番組を再放送しているのを見ていた時だ。その番組は、年末スペシャルとして、一年間に放送された番組のなかから視聴者の投票でベスト10を選び、一気に再放映するというのが恒例だ。この放送回は、その一つに選ばれ、再放送されていたのだ。
実は、この時、彼女は「この人と暮らしていこう」と心の中で決めたのだという。まだ付き合い始めたばかりだったが、彼から返ってきた答えに、彼の人柄のようなものを確信したかららしい。「あ、別に何かたいそうなことを言ってくれたわけじゃないですけど」、という注釈付きだが。
彼はこう言ったという、
「『黄泉がえり』って映画見たことある?死んだはずの妻や子供、好きだったクラスメートがこの世に蘇って戻ってきて、かりそめだけど再び同じ時間を過ごして消えてしまうという話なんだ。蘇れたのは短い時間だったけれど、生きていた時に言えなかったことが伝えられたりして良かったていう話なんだね。」
「映画なんで、もちろんそれはそれでいいんだけど、でもそれって結局、生きている我々が勝手に作った都合のいいストーリーだと思うんだよね。」
「会えなかったのは確かに残念だよね・・・」
「でも、弟さんはどうしても伝えたい思いがあった、そして、麻衣さんがそこへ行くことで、それが実現した。それだけで十分じゃないかな。」
「全然答えになっていないけど。」
(2025/9/5)
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