『二号車、二号車!』 (一号車)
『はい!、こちら二号車!、万事計画通りです。』 (二号車)
『フィルムをケチるな!、どんどん使え!』 (一号車)
『はい。ウメタニさん、うまくすれば局長賞もんですよ。』 (二号車)
『当たり前だよ、こっちは金がかかってんだ。大ちゃんに気づかれんな!』 (一号車)
『はい、はい、分かってます!』 (二号車)
一号車に乗る、長門裕之さん演じるテレビ局の番組制作者が、石原裕次郎さん演じる「大ちゃん」をうまく撮影するよう、二号車に向かって檄を飛ばす。ジープを駆って走行中の「大ちゃん」に気付かれぬよう、並走するトラックの幌の中から撮影しようとする二号車の同僚テレビ局員。うまくスクープできれば、テレビ局の局長賞ものだというのだ・・・。石原裕次郎さん主演、『憎いあンちくしょう』(日活、1962年)の一コマだ。 (
『 』 内は『憎いあンちくしょう』より引用。)
一号車と二号車のやりとりに活躍しているのが、ナショナルのCBトランシーバー初号機、T-1だ。
今でこそ、何の変哲もない光景のようにも思えるシーンだが、トランジスタ式の携帯型トランシーバーでやり取りするこのシーンは、時代の先端を行くイメージを醸し出したかったのかもしれない。本作で出てくるテレビ局というメディアそのものや、モニターが並ぶスタジオ内の光景、マスコミの寵児といった、時代のコンテンポラリー感と同じだ。
|
出典:日活『憎いあンちくしょう』
(日活映画『憎いあンちくしょう』より引用) |
総務省の電波利用ホームページで公開されているT-1の検定合格は、1962年1月1日だ。しかし、実際には前年の10月には型式検定に合格していたようで、検定合格後62年1月1日までの間に制度改正があったため、形式的に62年1月1日取得となっている模様ではある。(電波利用ホームページでは62年より前のデータは出てこない。)
いずれにせよ映画の公開は62年7月なので、当時の映画撮影がいくら短期間で行われていたとはいえ、T-1が登場してすぐに最新式の情報伝達ツールの小道具として使用されたことになる。62年はいわば、商業的には日本の現在の市民ラジオ制度の原点で、電波利用ホームページの検定合格リストを見てもわかる通り、約50社にも上る企業が一斉に簡易無線機としての検定を取得している。各社がこの市場に期待をし、機器の販売に乗り出そうとしたのだろう。ただし、一説では、実際に商品として売れたのはごくわずかの種類だったようで、一号機を合格させたものの、メーカーの殆どは、商業生産規模には至らずに、この事業からすぐに撤退していったようだ。そんな中で、発売間もなく映画撮影で採用されていたT-1は、さすがナショナルといったところだろうか?
前回、「日立評論」を公開している、日立グループの企業精神のすばらしさにふれたが、旧「ナショナル」、現パナソニックのホームページでも、社会に対するメッセージとして、同社がこれまでの歴史の中で世の中に送り出してきた製品の「1号機」を紹介している。電燈用のアタッチメントプラグから始まり、洗濯機やテレビなど、さまざまな分野の自社の「初の商品」だ。そんな輝かしい歴史の中、
トランシーバーの第1号機として堂々と他の電気製品などと同様に取り扱われているのが、このT-1だ。
T-1については、このサイトの中でこれまで幾度が触れている。「
T-1からの手紙」で記したような、「ラジオ事業部長の願い」を叶えるため(笑、
2012年12月、
2014年10月などにT-1を運用している。当局の個体はこの時点で既に製造後50年を経過しているが、トランジスタやコンデンサの出来がよかったのか、少なくともこの時点までは全く普通に使うことができている。
上記の運用記からもわかる通り、離れた相手と交信するという基本的な能力は、PLLやIF増幅、AF増幅など、ICを多用する今日のCB機と大差はない。もちろん、距離を伸ばしていって突き詰めて使っていけば、当然差が出てくるだろう。何しろ高周波増幅段もないのだから。しかし、もともと我々が現在行っているようなDX通信を念頭に設計・製作されたわけではないのだから、きっちりと基本性能を達成し続けていることは、それだけで十分立派というべきだろう。
最後に使用してから早6年以上(笑、そろそろ性能確認のために、再稼働させてあげないといけない(笑。
それにしても、「大ちゃん」は、ジープを運転して何をしようとしているのだろうか?
大ちゃん、こと「北大作」(きた だいさく)は、マスコミでは超売れっ子のタレントであるが、自分の受け持つテレビ番組の企画で、とある女性と知り合い、東京から九州の阿蘇まで中古のおんぼろジープを自ら運転して届けることを決意したのである。そのジープは、阿蘇の僻村でひとりがんばる恋人の医師の医療活動のために、その女性が食べるものを惜しんで貯めたお金で手に入れたものだ。ジープは手に入れたものの、移送する資金まではない。そこで、無報酬で運んでくれる人を募集していたのである。その依頼に応じる北大作。女性にとっては、ジープは離れ離れでありながら、恋人と遠距離で愛し合っているという「純愛」の確かな証だ。しかし、「純愛」の存在など半ば信じようとしない大作は、それを確かめようとするかのように移送を引き受けるのだが・・・。
依頼人である女性「美子」を演じる芦川いづみさんの美しさが本作でも相変わらず輝いているが、主人公は大作と、浅丘ルリ子さん演じる「典子」だ。典子(愛称「てんこ」)は、大作のマネージャーとして2年間毎日顔を合わせ、付き合ってきた恋人でもある。ただし「美子」が主張するような「純愛」とは、別の意味で全く違った純愛生活を送ってきたのである。
美子に抗うように、典子は大作を東京に引き戻そうと、大作の愛車であるジャガーのオープンカーを自ら運転し、ジープの後を追う。戦後17年、自由恋愛が高らかになった時代に、愛のあり方を一つのテーマにしているのかもしれない。それにしても、日本に高速道路など1kmも存在しなかった時代、東京から九州まですべて下道だ。この2台の背景に、国道1号線や2号線?の沿線景色も流れる一種のロードムービーでもある。
前回の『錆びたナイフ』に続いて、今回も石原裕次郎さん主演映画だが、ついでに裕次郎さんと無線のからみでいくと、『紅の翼』(1958年)では、羽田空港を離陸するセスナ機のパイロット役として、空港管制塔と英語で交信する航空無線のシーンを見ることもできる。
検問で使われるICB-680
『憎いあンちくしょう』が東京から九州までのロードムービーだとすれば、ある意味北海道内のロードムービーとも言えるのが、高倉健さん主演の名作『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)だ。
高倉健さん演じる「島勇作」は、網走刑務所を出所してすぐ、武田鉄矢さんと桃井かおりさん演じる若い男女二人(「欽也」、「朱美」)と、赤いファミリアで道中を伴にすることになる。二人は別個に北海道に失恋の傷心旅行にきていて知り合ったのだ。ファミリアは欽也の車だが、途中、たまたま勇作が運転中、強盗事件で警戒中の検問にひっかかってしまう。免許証の提示を求める警察官。しかし勇作は刑務所にいたので、当然運転免許証は既に失効済みだ。詰め寄る警察官・・・。
検問中を演出するかのように、背後では警察官が無線機を操る・・・。ロッドアンテナが長く伸びたその無線機は、ソニーのCB機ICB-680だ。
ただし、アンテナの付け根の特徴的なデザインからICB-680と思われるものの、リグの正面が映るわけでもなく、無線機は遠くからちらりとしか見えないので、あまり断定はできないのだが・・・(笑。
ICB-680だとすれば、680は型式検定合格が1976年5月、映画の公開が77年10月なので、こちらも撮影段階ではかなりの「新機種」だったと思われる。
実際に警察で使われていたかどうかは別として、CB機が簡易業務無線機として、工事現場や工場、登山やハイキング、運動会や祭りなどの学校や地域のイベント他で、実用的なコミュニケーションツールとしてよく使われていたことを考えると、『憎いあンちくしょう』や『幸福の黄色いハンカチ』でのCB機は、無線機としての使われ方としては極めて妥当なところだ。
そうした実用的な使い道はとっくに他の無線システムに譲ってしまったわけだが、ICB-680自体はいまだに愛用され続けている。CB機は我々のような趣味目的でのDX交信等には今後も生き続けていくことになるのだろう。
次回は、その3?????・・・・(笑。
('21/03/01)
ひとつ前のコラム(日立GT-20?(その1)) 次のコラム(日立GT-20?(その3))
HOME
© Nagoya YK221/なごやYK221