[朝の加入道山山頂。光はまだ緩やか。]




心地よい山頂


朝6時、視線の上からなだらかな山の頂が近づいてくる。頂は明るく開けている。そして、テーブルやベンチも見えだした。その奥へと続く一筋の道にも、まだ朝の柔らかい光が差し込んでいる。

山頂からはすでに一人のハイカーが立ち去ろうとしている。行き違いざま、尋ねてくる・・・
「昨日はここの避難小屋泊りだったんですか?」
「いえ、今、下から上がってきたところです。」

山頂には、比較的新しい、きれいで立派な避難小屋がある。言葉を交わしただけで、そのハイカーは下へと降りて行った。当局に聞いてきたということは、その人も避難小屋泊りではなく、反対側から今上がってきたところに違いない。このような低山で、こんな時刻に山頂で人に出くわすのはめずらしい・・・もっとメジャーな山ならわかるのだが。

加入道山山頂(標高1,418.4m)は木々が生い茂っているので展望は良くない、というのが、一般的な評価のようだ。加入道山で運用するのは初めてだが、山頂の写真を見る限りは少なくとも当局にとってはこれだけ視界が開けていれば十分だ。最近は登ったことのない山でも、情報が氾濫しているので、何度も行っている気分になれるからかなりお得だ(笑。電波の飛び受けだけからすれば、おそらく・・・、というより間違いなく、すぐお隣の大室山(標高1,587.6m)の方が断然にいいはずだ。それでも加入道山なのは、この山頂にはベンチやテーブルが四つほど、設置されているからだ。ここに腰掛けながら、もちろんリグも置いて、コーヒーでも飲みながらのんびり運用しようという魂胆だ。しかも、写真で見る限りは樹間も適度に空いているので、非常に気持ちがよさそうなロケである。

 
左  : 朝6時前、登山道途中で富士山がまだ寝ぼけ眼の顔を出す。
中、右: 山頂にはテーブル、ベンチがあり、運用にはFBだ。
 

山頂は馬の背状で丘のような広さだ。ベンチのある場所を過ぎると、更に道は大室山の方へと伸びている。木々は言われているほど茂っているわけではなく、予想通り、のんびり過ごすには気持ちよさそうなロケである。登山口の気温は5℃だったが、山頂は予想以上に空気が冷たい。手がかじかんでくる。しかも荷物を降ろしてリグをセッティングしたり写真を撮っている間にあっという間にガスが立ち込めてきた。白く一変した道筋の向こうから、朝の光が差し込んでくる。

ダウンを着込んでブラックバードで運用にかかる。

本日のテーマは??といえば、「50mWで、ある程度粘ろう」、ということだ。せっかくブラックバードを持ち込むので、50mWがどんなものか、試してみようというものだ。「ある程度」というのは、それだけだとストレスがたまりそうなのは明白なので(笑、あるところで500mW全開で行こうというものである。500mW の方は87Rメインで行く予定である。

50mW運用という意味では、東芝の52Aや三洋のラシーバでの運用実績があるが、もともと50mW機というのはおもちゃに毛が生えたようなもので、本格的なリグとしてつくられたものが存在しない。使えるチャンネルは一つのみで、そもそも50mW 分程度の飛びしか想定していないので、高度な受信能力など考えておらず、したがって受信能力がいい加減だ。(本当は逆なのだが。) しかし、いうまでもなく無線機で最も重要なのは受信能力である。だから本格的な無線機仕様のブラックバードが、50mW出力を備えているのは特筆に値するだろう。これでようやく本格的な「50mW運用」というのが可能になるのである。

山頂 6:15:
朝日が差し込む


SSB的変調?


FUNCTIONスイッチで「TX-Power」を50mWにセット、さっそく発砲してみる。・・・ん?今日は運用局が少ないのか?、はたまた50mWだからなのか?しばらく応答はない。それにしてもいつもならイベントデーのこの時間ならチャンネル内は埋まっているはずなのに、聞こえてくるのは5ChのトウキョウAB505局のQSOのみだ。

 「50mW市民無線の世界」 (笑
しかし2~3分もしないうちに応答が入ってくる。一応は飛んでいるようだ(笑。

最初に応答があったのはなんと房総半島の先端、館山からだ。チバTS106局で、RSは53/55だ。55とは信じがたい。しかもこちらのSの方が強いとは・・・・。驚いた理由はもちろん距離ではなく、方向だ。距離に関しては、別に50mWでも、Esだろうが、300㎞QSOだろうが可能だろう。方向性は、事前の調査では、加入道山山頂からの見通し範囲は、90度方向(真東)から南側にかけては、きわめて飛びが悪いはずだ。すぐ東に大室山、さらに南方向には蛭ヶ岳、塔ノ岳等の丹沢の山塊が大きく立ちふさがっているからだ。それでも55か???

続いて、今度は静岡側から、シズオカNO709局からコールが入ってくる。場所は富士スピードウェイの近くということで、静岡側にも飛ぶのがこの辺りのロケのいいところだ。RSは56/53と、こちらは順当なところだ。

二局まではスムーズにいった。しかし、その後はなかなか続かない。CQはどれも空振りだ。こらえきれずに500mWに切り替えてみると、堂平のえひめCA34局より応答がある。RSは54/55。それでもすぐに応答があったわけではないので、タイミングの問題で、出力とは直接は関係なさそうだ。やはり50mWはCQより呼びに回った方がよさそうだ。立川からとうきょうMS25局が57で入感してくる。念のため500mWで語りかけてみるが、事情を話すと『それじゃぁ試してみますかぁ~?』ということで、出力をダウン、50mWに切り替えてみる。・・・何の問題もなくつながる(笑。まあ、相手が57だから当然だが。こちらからは54だ。

MS25局さんはありがたいことに、更にいろいろとレポートを送ってくれる。どうやら変調も全く問題なく、FBなようだ。淡白なブラックバードの変調かと思いきや、まあまあFBっぽいらしい(笑。出力を落とすと変調の低周波電力とのバランスが変わるのか?、面白いことに変調に合わせてSが振れるようだ。『SSBみたいにプラス側にメータが振れますよ~』とのことである。続けてつながったつくばA3局からも全く同じコメントが返ってくる。こちらから尋ねているわけではないので、よほど特徴的なのだろう。さらに後からつながった、いたばしAB303局、トウキョウYU815局からも、変調に合わせてSがプラス側に振れる、との全く同じコメントだ。お二人とも全然違った時間帯につながっており事情をご存知でもなければ、こちらからコメントをお願いしたわけでもない。こちらからお伝えしたのは、50mW運用だということだけである。


 
山頂 9:10:
ハイカーが過ぎる


さすがにパイルには負けます(笑


引き続きしばらくは50mWで粘ってみる。・・・テーマ通りだ(笑。

サイタマMS118局はいつもFBな場所から出られる局長さんの一人だ。今日は雁ガ腹摺山から出られている。昨年のGW一斉OADは確か日向沢の峰に移動されており、三菱TX-830の100mWでお相手をして頂いた。今日は50mWである。RSは57/53、50mWだと平均して3くらいSが落ちるというのが相場のようだ。さいたまBB85局はいつもの三毳山だ。QSO早々いきなり「今日は弱いですね~、いったいどうしたんですか?」とのお言葉だ(笑。いつもは59以上でQSOしているので無理もない。RS55/53。50mW運用であることを説明すると「50mWでもよく飛ぶもんですね~」と今度は感心しきりだ。

静岡県側では、盟友しずおかDD23局からコールをいただく。RS51、いやフルコピーできていないので、本当は41が正解かもしれない。向こうからは41といわれているのがはっきりと聞こえてくる。余りに厳しいので500mWに上げたい衝動に駆られるが、出力を上げずになんとか我慢、QSOは完了だ。しかし、残念ながら移動場所だけは取りきれない。(後から確認すると富士川河口のようだ)DD23局は当然500mW運用なので、DD23局には申し訳ないが、50mWとの差を比較するには結果的にちょうどよいQSOだ。しかし、RSがほぼほぼ一緒ということは、やはりDD23局の耳が良いということか??

ねりまTN39局は、GW一斉OADにおける常置場所?(笑、今年も渋峠からだ。国道最高地点からQRVされているようだ。渋峠はロケがいいだけに次から次へとつながっている。こちらには53なので、50mWでお声がけするにはさすがにちょっと厳しいかもしれない・・・と思いつつトライしてみると・・・・・・・やはり50mWでは撃沈だ。相変わらず他局のお相手で忙しい。しからば、500mWの半分の250mWでどうだ!とコール、うすい期待を抱いて応答を待ってみるがこちらも撃沈だ(笑。仕方ない500mWでどうだ!!、でようやくつながる。結果的にはこちらからの飛びはRS56と結構よいではないか。これも出力の違いではなくタイミングの問題か??ブラックバードは10mW単位で出力を調整できるが、まぁ使うのはこんな時ぐらいか?(笑。


山頂 12:40:
日差しは降り続く



500mWの出番



50mWでのQSOはここまでで18だ。途中エアバンドを聞いたり、コーヒーを淹れながら運用しているので、もっと一生懸命運用すれば(笑、交信数は増えているだろう。

50mWの状況は大体わかった。普通の受信能力をもったまとまなリグであれば、出力50mWでのハンデは、500mW機で少しロケの悪いところから出ているのと同じようなものだ。感覚的には、例えば500mW機が1,000mHのロケから出ているとするなら、50mW機は100~200mH位のところからでているようなものか。

ここで長めのコーヒーブレーク、そのあとはいよいよ500mWに切り替えだ。

ところでエアバンドの方はどうか?ここでも東京ACCの「関東北セクション」124.1MHzを聞いてみる。前回の栃木県高峯運用時と同じように、航空機、管制側の両方がFBに入感してくる。加入道山は「関東西」エリアに属するので、「関東北」にこだわる必要はないのだが、普段から一応「関東北」をレファレンスにしている。

航空路管制は基本的にはRCAGと呼ばれる遠隔対空通信サイトからのリモート送受信だ。つまり所沢にある東京ACCは、遠隔地にある無線施設経由で電波を送受信している。「関東北」は茨城県北端の大子町の送受信所だ。したがって、管制側については大子から発信される電波が、ここ加入道山にFBに入感していることになる。ちなみに「関東西」120.5MHzは、東京ACCの本拠地所沢のアンテナからの送受信だ。

40分以上コーヒーブレークを取っていたので、時計も11時を回ってきた。イベントデーでは通常運用局が最も増えてくる時間帯だ。さっそく500mWに切り替えてみる。リグは87Rだ。CQを出してみると・・・・・堰を切ったように呼ばれる(笑。一度に3~4局だ。これはさすがに50mWでは考えられない。もっとも本当はこちらの時間帯を50mWにあてた方がよかったのかもしれない。

ポータブル7、福島県二本松市の麓山(はやま)には、今日も移動局が出られているようだ。今日出られているのはミヤギNE410局で、コールが入ってくる。宮城の方から遠征だろうか。麓山はふくしまFD55局など福島ローカルさんがよく出られる場所だ。4年前のGW一斉OAD、山梨県上野原市の権現山移動の時はFD55局からお声がけをいただいていた。運用前はひょっとして今日も麓山とつながるのではないかと期待していたのだが、呼ばれるまですっかりそのことを忘れていた(笑。

NE410局はRS51/53、権現山は51/51だったが、耳Sでは明らかに加入道山の方が上だ。こちらからの飛びも権現山51に対して今日は53である。QRBは権現山256Km、加入道山268Kmである。(両方とも見通し外)

さすがに500mW?、更に思いがけない場所からもコールがかかる。長野県伊那市の鹿嶺高原だ。例年通り今年も合同キャンプが行われているようで、最初はナガノAA601局、その後サイタマUJ120局、ヤマナシFK909局からもお声がけをいただく。鹿嶺高原自体は結構標高がある場所だが、伊那市とは間に甲斐駒等の高い山々が間に挟まるはずなので、どこかで回折しているには違いない。これもおそらく50mWでは無理だろう。

13時前すべて片付け&撤収を完了、最後に一つだけ残しておいた87Rをワッチしてみると、なんとシズオカAC703局のCQが聞こえてくる。あちこち盟友だらけになってしまうが(笑、AC703局も盟友だ。離島運用ではこれまでに幾多の思い出深いQSOをさせていただいている。51でも厳しめの入感だが、こちらからもなんとか届いたようで、最後のQSOを完了する。703局は、今月奄美に移動されるようだ、Good Luck!!

山頂にはまだ、山桜?が花を開かせている。午後になったばかりの光が、その花びらを照らし出していた。

37QSO、各局TNX!! (´19/5/11)





運用データ

■運用日時・運用場所:
 
 ・2019年5月4日(土、祝) 6:20~13:00
  ・山梨県道志村 
    加入道山山頂(標高1,418.4m)
  

■使用&装備リグ:
  CB : Blackbird (Polaris)+パワードスピーカー
       ICB-87R(SONY)
  DCR: IC-DPR5(ICOM)+1/4λホイップ
  
■使用電源
  リチウムイオン電池10.8V/4.2Ahほか




QSO局
37QSO TNX!!  
(敬称略)

2019年5月4日(土、祝) 6:20~13:00  
ちばTS106/千葉県館山市 53/55 シズオカNO709/静岡県小山町 56/53
えひめCA34/埼玉県ときがわ町堂平山 54/55 ニイガタA431/群馬県赤城山 41/51
かながわCE47/神奈川県相模原市城山湖 53/52 とうきょうMS25/東京都立川市 57/54
つくばA3/茨城県つくば市つつじが丘 58/54 トウキョウAB505/群馬県赤城山長七郎山 53/51
いたばしAB303/静岡県伊豆市仁科峠  57/55  サイタマMS118/山梨県大月市雁ケ腹山  57/53 
カナガワHL320/神奈川県丹沢蛭ヶ岳  59/M5    
はちおうじX25/東京都小仏城山 53/52 トウキョウYU815/埼玉県さいたま市西区 59/54
しずおかDD23/静岡県富士川河口  51/41 サイタマST165/茨城県筑波山子授け地蔵 57/55 
さいたまBB85/栃木県佐野市三毳山富士見台  55/53  シズオカAD301/静岡県富士山五合目太郎坊  59/55 
トチギAE560/茨城県桜川市きのこ山  54/51  さいたまUG100/埼玉県入間市桜山展望台  58/55 
カナガワOS327/静岡県熱海市玄岳  53/51  ねりまTN39/群馬県渋峠  53/56 
シズオカMH313/静岡県富士山五合目太郎坊  56/53  サイタマUZX100/  53/55
ミヤギNE410/福島県二本松市麓山  51/53  シズオカAR318/静岡県富士宮市  51/51 
トチギIC320/茨城県石岡市  52/53  トチギAC427/栃木県栃木市  54/54 
ナガノAA601/長野県伊那市鹿嶺高原  51/51  サイタマHK118/埼玉県春日部市  54/52 
サイタマUJ120/長野県伊那市鹿嶺高原 51/51  シズオカAC515/静岡県富士市田子の浦   52/53 
ヤマナシFK909/長野県伊那市鹿嶺高原  51/51  としまYY5/埼玉県さいたま市  53/55 
トウキョウB71/埼玉県ときがわ町堂平山  51/51  トウキョウLM502/東京都八王子市  52/51 
サイタマEP227/埼玉県さいたま市中央区  51/52  シズオカAC703/静岡県静岡市葵区  51/51 
備考:は、ブラックバード50mW、はブラックバード500mW、無印は87R。



ひとつ前の運用記 次の運用記  HOME


© Nagoya YK221


2019運用記
加入道山(GW一斉OAD)
山梨県道志村