久々に窪田アンプを造ってみる・・・(その2)

                

その1からのつづき)

良い部品はどんどんなくなる


1990年代後半に、無線の世界に戻って?きたころ、当局が驚いたのは、その部品の値段の安さだった。よく無線の雑誌に広告で載っていた抵抗やコンデンサ、コネクタなどの部品やユニットの値段である。オーディオの世界とは一けた感覚が違うような印象だった。たとえば、機械式のボリュームである。オーディオでは業務用の上等なボリュームを買おうとすれば一つ4~5万円する。もちろんそんな高級品を自作のアンプで使う人間は限られているだろうが、ステレオ分のアッテネーターを自分で組もうとすれば、使う抵抗にもよるが、1万円はくだらないだろう。

アンプの回路で使用するのに当局が好きな抵抗はRMGと呼ばれるカーボン抵抗だった。音の切れと透明感が抜群のこの抵抗はリード線は金メッキで、1本210円くらいだった。普通なら1本10円程度で買える抵抗の21倍の値段ということになる。しかしこの抵抗ももはや生産中止になって久しく、秋葉原でも一時期は1KΩだとか10KΩだとかの売れ筋の抵抗は言うに及ばず、E48系列の中途半端な数字の抵抗を残すのみとなってしまった。(なぜか最近は在庫の種類も若干復活した模様)

このRMG抵抗は、「会社沿革」の言葉を借りれば、『大河内正敏博士が率いた理化学研究所の発明による炭素皮膜固定抵抗器を通じてわが国の電子機械工業の発展に貢献することを使命とし、1937年に抵抗器製造業として発足』した、理研電具製造という会社が製造していたものだが、すでに他の事業へと完全にポートフォリオを転換している。つまり日本がリードしいていたオーディオの時代は完全に過ぎ去ったということを暗示する。

それにしても、こうした「いいモノ」を造れる技術が、周りのトレンドとともにどこかに行ってしまうのかと思うと実に寂しい限りだ。最近はこの抵抗器の流れを汲むものとしてAMRGという、こちらも金メッキリードによるカーボン抵抗がオーディオ用途として使われている。かろうじて同種の音楽用の抵抗は系譜としてつながってはいるものの、しかしかつてのオーディオが全盛だったころの勢いは当然ながら見る影もない。

上)リケノームRMG抵抗。リード線は金メッキ。
下)アムトランス社のAMRG抵抗。音はよいが、RMGに比べると、若干中低域にあいまいさがある、というのが当局の印象。


別に抵抗に限らず、例えば電解コンデンサなども、「オーディオ用」とかになっただけで、下手をしたら通常品の2倍、3倍の値段になったりする。無線やパソコン用途で問題になるのは、せいぜいインピーダンスが高いか低いかぐらいでそれほどの値段の違いは生じない。

ただしすべて値段が高い高級部品を使えばいい音が出るとは限らない。むしろそうでない場合の方が多い。しかしその逆は真なりで、ジャンク並みの安物の部品のみを使って決していい音をだすことはできない。時々、同じ「電気的数値」ならば部品一つで音が違うわけがないではないかと言われる方がおられるが、それはよほど耳が悪いか、違いの判らないシステムを使っているかのどちらである。フィルムコンデンサにはフィルムコンデンサの固有の音があるし、電解コンデンサには電解コンデンサ固有の音がある。前回「その1」でシンセサイザチューナーの話をしたが、シンセ式のチューナーが出始めた頃は音が「シンセ臭い」とまで言われたほどだ。本来、RFの一つの様式に過ぎないPLL/シンセサイザが、AFの音に直接的に影響することはないのだろうが、検波などを通して間接的に影響を与えていたのかも知れない。その頃は、従来の機械式のバリコンによるアナログチューナーは音については優位性を持っていたりもした。

部品による音の違いで、もっともわかりやすいのが、電気エネルギーを物理的エネルギーに変換するスピーカーユニットの振動板で、紙のコーンには紙の、アルミのコーンにはアルミの固有の音がある。コーン紙の場合はその物性からまだ物理的に違いが説明しやすいが、電子回路のように理論的に立証できないことを以て、違いが存在しないと言い張ることはできない。その違いを立証するに足る理屈や「電気的数値」がいまのところ分かっていないだけだ。つまり、それでも地球は回るのである。

例えば、抵抗、コンデンサ、コイル、半導体素子、もしくは回路そのものが、微分していけば微小なLCRの塊である。抵抗はその主成分がRで、コンデンサはその主成分がCであることに過ぎない。これらの微小なLCRの組み合わせが回路全体として天文学的な数の組み合わせを構成し、最終的に音に影響を与えていると考えることもできるのかもしれない。


対称差動増幅回路

本機の回路は下図のような対称差動増幅、SEPPの極めてシンプルなものだ。当局の理解では窪田さんのアンプは90年代後半から2000年代初頭にかけて、磨きをかけて完成されていったように記憶している。ただし本機の回路図については、特に絶対値は記さないが、回路の定数や素子は基本の窪田さんの回路からは改変して製作している。例えば、初段の2階建て部分は、窪田さんの最終型は2個使いであるし、2段目もこの回路ではトランジスタ4個使いであるが、ここもオリジナルは2個使いである。(後述するが、2段目については当局も最終的に2個使いにしている)。

 


また通常は、パワーMOSの電源側(ドレイン)には、電源のインピーダンスを下げるために、100~500μF程度のコンデンサをぶら下げるのが普通だが本機では入れずに、Zobel等のフィルターを除き増幅回路内はコンデンサレスとしている。また、パワーアンプの場合、2段目の最終型としては、終段のアイドル電流のコントロールのために、サーミスタを入れる回路となっているが本機では入れていない。

 旧石塚電子(現SEMITEC社)製サーミ
スタ。コンデンサに外観はそっくり。
上は1K Ωでつまむと人肌で850Ω
程度に抵抗は低下する。下は100Ω。

オリジナルでは、このサーミスタを物理的に終段と熱結合させて、終段の熱暴走を抑えるものだった。通常は終段FETのアンプといえども、バイポーラ―トランジスタアンプ同様、終段が過度に温度上昇するのを防ぐため、ドライバー段で終段のアイドリングをコントールする補償回路を設けるのが普通だ。通常はトランジスタ1~2個で構成されるシンプルな回路だ。メーカー製、自作を問わず、普通のアンプならごくフツーについているこの制御回路については、窪田さん自身もいろいろと研究されたようだが、音楽的にどうも納得されなかったのか、最終的にたどり着いたのは、ドライバー段の電圧を一個のサーミスタでコントロールするという最もシンプルな結論だった。この「サーミスタ」というのは言うまでもなく、温度に応じて抵抗値が変わるという抵抗器である。この回路図で言うと、オリジナルではVR4と直列にサーミスタが入ることになる。動作は単純で、終段の温度が高くなると、熱結合したサーミスタの抵抗値が下がり、したがって終段のVGSが下がり、アイドリング電流が下がる(したがって熱も低下する)というものだ。もちろん熱暴走させないための安全な熱平衡点は、トライアンドエラーでサーミスタの(初期)抵抗値を決定する必要がある。

当局も以前いくつか試作したことがあるが、サーミスタを使用すると音がごくわずかに甘くなる(あいまいになる)?との印象から、本機では固定抵抗としている。(アイドリング値を決定するために、半固定抵抗との組み合わせである)

さらに、窪田さんの最終型という意味では、本機のようにフィードバックを差動入力側に戻すのではなく、位相を反転する形で入力側に戻すというものだった。この位相反転型についても、試作したことがあるが、視聴時間が足りなかったせいか、特に有意差が感じられなかったので、本機ではそれ以前の従来型のバージョンがベースということになる。この位相反転型の回路による音への影響については、いろいろと喧々諤々があった。位相を反転して入力側にもどすことで、低域がグっと前にでてくるとか、位相を反転させるだけで音が変わるわけがないではないか、とかの議論だ。

この位相反転型については、サーミスタを用いた回路と一緒に使われていたと思うが、サーミスタを用いた場合ハイエンド側の伸びが固定抵抗に劣るというのが当局の印象だったので(=つまりバランス的には少し中低域側に寄ったような印象を受ける)、回路の違いによるというよりもそうしたほかの素子等の要因による影響の方が大きかったのではないか、というのが当局の単なる推論だ。回路方式による違いを厳密に比較しようと思えば、他のあらゆる影響因子のパラメーターを同一にして比べなければならないので、なかなか容易なことではないと思う。

老婆心ながら、初段や2段目のトランジスタは3個使いや4個使いする電気的必然性は全くないし、コンデンサレスというのも、発振等のトラブルの危険性があること、また、本機のようにアイドリングの調整回路(素子)を付けなくても終段で使える素子や定数は限定されるので、トラブルに対処できる方以外は、オリジナル回路・定数通りに製作されることをお勧めする。

 K389/J109のペア。写真の
IDSSクラスはVで、14~15mA前後。

ところで、初段のK389/J109は、窪田さんが好んで用いられた素子だが、無論こちらも生産中止から久しく、流通在庫もほとんどない状態だ。ネットオークションでは、現在では入手の困難性から、1ペア6,000円程度という暴利な値段で売られていたりする。しかもペアといっても、単にステレオ用に2個という意味で、IDSSがペアリングされているわけではない。しかしK389は、K170とほとんど特性は一緒なので、まだ多く出回っているK170でもって選別して特性を揃えたものを熱結合してやれば同じように使える。なおK170はJ74とコンプリである。

窪田さんは初段の電流について、0.8mA程度から2mA程度で動作させることが多かったが、最終的には3mA程度の動作とすることで完成したように思う。当局は20年以上前から(笑、2~3mA程度で動作させていたが、本機についても、1mAから3mA程度に動作電流を振って試聴した結果、結果的に3.2mA程度の動作となっている。初段の電流の大きさによって聞こえ方が変わるわけだが、どの電流値が良いかは意見の分かれるところだろう。このK389/J109はサンスイのAUシリーズなどでも使われていたらしい。本機のI
DSS はBLランクだが、サンスイではVランクのものを使用していたらしいから、動作電流はかなり高めの回路で使用していたのだろう。

もっとも、初段の動作電流を大きくとると、本機のように電源電圧が低く、かつ電圧増幅段と終段が同じ電圧という場合は、電圧の利用効率が下がるというデメリットがある。回路図からわかるように、スピーカーに加えられる最大電圧は、電源電圧から、2段目のエミッタ抵抗による電圧降下及びトランジスタの飽和電圧、および終段の素子の動作電圧、およびソース抵抗による電圧降下などを差し引いた分になる。2段目のエミッタ抵抗による電圧降下は無論初段の負荷抵抗と動作電流で決定される。本機の場合、初段負荷抵抗は1.5KΩ、動作電流3.2mAで電圧降下はここだけで4.8Vということになる。本機の場合、電源電圧は24Vなので、一般的には出力20W強のアンプを構成可能だが、それは終段で最大振幅を振らせられる場合の話である。一般的に、パワーアンプでは終段の電圧より電圧増幅段を高くしているのはこのためである。

2段目についても、往年の名器と呼ばれる石が登場だ・・・。2SA992、2SA1191、2SA999(およびそれらのコンプリ)だ。往年と言いつつ、音的にはこのころがピークだったのかもしれないが・・・

(その3につづく・・・)


テストベッドで試聴中の回路

                                   ('17/1)




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