久々に窪田アンプを造ってみる・・・(その3)

                

その2からのつづき)


素子の音

一応前回からの続きということだが、その前回を書いたのは今年の一月、もう一年が過ぎようとしている。書くのをさぼっている間に、あっという間に時間が経ってしまった(笑。

ということで、前回予告では今回はアンプの「2段目」の話だったと思うが、アンプを完成してから2年も経つので、印象についてはそのときのメモも見ながらの印象と言うことになる。「印象」とは何を指すのかといえば、このアンプの製作時に実験していた、2段目の素子の違いによる音の違いについてである。(前回回路図Q15~Q22)

素子による音の違いについては、使う回路によっても影響を受けるので、ひとつのイメージレポートが、そのままどのアンプに使っても成り立つものではない。しかし、それらの印象記を総合して眺めていくと、だいたいのその素子の素性というものが分かってくるのである。つまり、第三者が製作するときに参考になるのである。

本機の場合、比較したのは、次の素子である。
A1191/C2856、A999/C2320 、A992/C1845、 A1538/C3953

比較時の初段ドライブ電流は3.3mAで共通、当該2段目の動作電流はおおむね10mA前後である。前回記したように、本機は初段の電流値も振って音質をチェックできるようにしてある。2段目のエミッタ抵抗が上下とも半固定抵抗にしてあるのはそのためで、良好だった3.3mAでの比較ということになる。またA1538のコンプリについては2パラ、それ以外は4パラでの比較である。冒頭写真がそれらの素子だ。本機の回路はあらかじめ、素子を容易に取替え引換え可能なようにピンジャック式に製作してある。

本来、この回路では単発では中出力程度の素子が必要なのだが、これらの比較素子のスペックはいろいろだ。例えばA992/C1845などは、Icが50mAしかないので、通常ではこのような回路ではありえない使い方だ。かなり無理をした使い方だが、それを承知で実験してでも音の違いを試してみたいというのが製作者の心情である。なお、4パラの素子については、すべてhFEの絶対値が±3のものを選別して使用、A1538/C3953については、hFEが全く同じもの2ペアをパラレルで使用している。(余り意味はないが)

下記は試聴したときのメモの表現そのものである。

A1191/C2856 
・相対的に中域につやがある。(A992に若干似ている) 
・中域にやや暖かな滑らかさ/独特の温かみがあり、中高域にかけて伸びがあり、独特の透明感、サラサラ感がある。
・全体としては、ある意味特徴がないとも言える。線は太くも細くもないし、「思い入れ」もそんなに激しくない。
優等生タイプで、「FET的」音色、あたたかみ、優しさは感じる。

A999/C2320 
・グラマラスだが、端正でクール、情は入れ込まずに淡々と鳴る。
・音場は広い。中低域に独特のダイナミックレンジ感、エネルギー感満載、エコーもよく出る。線が太く、力強い。
・総合的には、「真空管的」ななり方だが、ややもすると安物のトランジスタラジオ的音の出方と聞こえなくもない場合がある。

A992/C1845 
・バランス的には、相対的に中高域型(フラット型)。
・最も音が生々しい、声の質感がストレート、あでやかな中高域で情感をよく伝える。
・いわゆるモニターオーディオ、高級コントロールアンプ的音の出方。
・線は若干細めだが、中低域も含め、独特の艶がある。音場的にはやや真ん中に集まる感じ。
・お上品だが、粒立ち、分解能良好、音の表情・ディテールが良く出る。

A1538/C3953
・低域は太く力強いが、上品な低域が出る。全体としてスケール感が良く出る。
・粒立ち、分解能等々、特に際立って抜きん出ているものはないが、全般的に優等。
・全体として、心地よい爽快感??がある。

最大公約数的に言うと、A1191/C2856が「FET的」音の聞こえ方、A999/C2320が「真空管的」音の聞こえ方、A992が「トランジスタ的」音の聞こえ方のイメージである。それぞれCobは3.2㎊、6.5㎊、2.0㎊で、裸特性での高域の出方と相関しているように思えなくもない。

A1191/C2856は、K389/J109同様、窪田さんが愛用されたトランジスタであるが、最近はかなり入手が難しくなってしまった。上記の素子は世の中に出てから久しく、最近のメーカー製アンプなどではとっくにもっと新しいものが使われているわけだが、20年、30年経ったからといって、20年、30年分、素子自体が音的によくなったかというとそうでもない。すでにこれらの素子の時代に音的にはほぼ完成の域に達していたからである。

終段に使われる(使われていた)MOS FETにK405/J115という素子があるが、自作家には未だに根強い人気がある。「サンスイ」なんてメーカーがあったことなど知らない!!という方もおられると思うが、そんな時代に使われていた音響用FETである。サンスイは「AUシリーズ」など、アンプづくりでは定評のある音響メーカーであった。(パーソナル無線まで出してましたが。)


4パラで試聴中。(片チャンネル分)。
初段の半固定ソース抵抗(青い四角い部品)は、後から固定抵抗で置き換えるため、仮付けだ。 
終段(K2221/J352)のゲート抵抗はFET直付けで、絶縁チューブ内に隠されている。
スイッチング電源は基本的にコンデンサ入力なので、そのままでは突入電流が問題となる場合がある。したがって、ソフトスタート機能付きが一般的だが、ソフトスタート機能付きと言えども負荷側容量3万μF 程度以上は突入電流対策は必須だ。
さらに、本機は、「その1」で記した通り、電解コンデンサはチャンネル当たり10万μF 、スイッチング電源は4器使用しているので、対策を施さないと電源スイッチなどはひとたまりもなく破壊される(接点が溶融する)場合がある。本機では、抵抗とディレイリレーによる最もシンプルな構成のものを使用。




その他の一般的音質影響因子

終段のソース抵抗(R19、R20)は、音質に影響を与えるものとして、よく取りざたされる素子だ。帰還をかけて回路を安定させるために必要なだけで、音楽的意味はない、いわば必要悪の抵抗だが、音の出口に近いので、否応なしに注目を浴びる。MPC74などの金属板抵抗でないと絶対にダメだとか、いやいや酸化金属皮膜抵抗でも普通にOKだとか、議論は盛んだし、ここに何を使うのかにこだわる人は多い。

ソース抵抗は直接信号の通り道で、出口に近いので分かりやすいのだが、それに比して入り口側の受け抵抗には相対的に無頓着な方が多い。本機では、42.6KΩという固定抵抗(RMG)である。これも試聴の結果決めた値である。前段の機器の回路(送り出し側の回路)との組み合わせにもよるが、一般的に受抵抗が大きい(本機の場合50K超)と空気感や空間表現がうまくいくが、エネルギー感が乏しいものになり、低過ぎると(本機の場合例えば20K)、エネルギー感は十分なものの、妙にベタ付いた音、余韻も何もない音になる。(これは当局の経験則なので、そうでないと言うご意見の方もおられるかも知れない。)入力にボリュームを使う場合は、更にそのクオリティがもろに音質に影響する。最近はオペアンプなどを使えば、コストパフォーマンスの高いヘッドフォンアンプが超簡単に作れるので、自作される方も増えているようだが、音に不満がある方はボリュームを「いいもの」に変更したり、音響用の固定抵抗にしたりしただけで、ドラマチックに音質が「変わる」可能性がある。音のベールが一枚も二枚もはがれることに気づくはずである。(固定抵抗にしたときは、言うまでもなく、ソース側で音量をコントロールする必要がある。)

意外と盲点なのが、終段のゲート抵抗(R17、R18)である。ここも、回路の発振防止に必要なだけの電気的な必要悪で、音質的にはなんら寄与していない。しかし、ここに例えば、新品の金属皮膜抵抗を入れて聞いてみると、1~2時間のうちに劇的に音が「変化」する。聞いているうちにアレヨアレヨという間に変化していくので、面白いくらいである。もちろん抵抗値が変わるわけではない。つまり、音質的に関係ないと思われる部分でも、安易な部品を投入することはできないのである。(金属皮膜抵抗が悪いという意味ではない、念の為。)

もうひとつよく取りざたされるのが、終段の動作電流だ。本機では、400mAでの動作となっており、これも試聴しながら決定したものだ。200mAぐらいでもアンプという観点からは全く問題はないが、実態としては、動作電流を変化させることで、音質が変化することは事実だ。具体的には、本機では、300→350→400mAと増やしていくと、低域の出方がかなり異なってくる。電流を増やしていくと、ズシンと非常に質量の重い低域に変化してくる。スピーカーを自作したことのある方には分かると思うが、使用しているユニットのm0をどんどん大きくしていったかのような感覚だ。

このようにアイドリング電流により音質が変化することは、終段FET自体の特性なのか、ドライバー段の半固定抵抗の特性なのか、NFBを含めたアンプ側回路がオーバーオールで効いてくるのか・・・等々、余りに多くの影響因子が絡み合っており、更にスピーカーという特性の回路と直結していることもあり、定量的なルールを見出すことはきわめて難しい。自作の場合は試聴しながら個別に振ってみたほうが早いのが実態である。

電源も大きく音を左右する要因になる。DCアンプの出たての頃は終段についても定電圧電源が必須だったが、最近は通常のトランス式のアナログ電源が主流だ。その代り、トランスや整流用のダイオード、電解コンデンサについては、相応に良質なものが求められる。窪田さんは比較的スイッチング電源を好んで使われていたが、スイッチング電源は発振器そのもののようなものなので、理論的にはノイズ上は不利だ。しかし、良質なアナログ電源の静けさと、スイッチング電源との差を感じられるぐらいになれれば、むしろしめたものである。


部品の入手性などから、オリジナルの回路の素子通りに窪田式のアンプを造るのはもう困難になっている。しかし、一つの回路形式でアンプを造りづけていると、それなりにノウハウがたまってくるのも事実である。自分なりに回路を若干アレンジしてみたり、使う部品を検討することで、製作するたびに少しでも自分の理想の音に近づけたと思えた時の喜びこそ、アンプづくりを趣味とする人の醍醐味でもある。無線と一緒で、病的な、ディープな世界だ(笑。

自作アンプの世界では、金田式、安井式などが有名だが、当局的には、しばらくすると、また窪田式のアンプを造っているような気がするのである。

                                   ('17/12)






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