コラムコラム | |||
沖縄運用とEs | |||
<Esの謎> |
2007年の沖縄運用では、初日6月23日は本島の南城市サンサンビーチ、2日目の24日は波照間島(八重山郡)の港(当初計画はニシ浜)にQRVしている。いずれも北東方向に海がある、開けた場所であるが、これは初めての本格的な沖縄運用であるので、念には念をいれて、本土側に海が開けたロケをえらんでいるためである。低打ち上げ角・到来角でも十分にQSOできるように、との狙いだったが、結果的には、そのような心配は全く無用だった。
Es伝播時の打ち上げ角・到来角は想像以上に高い?
Es伝播の特色として、「通常の八木やダイポールではいけなかったのが、ホイップのハンディ機に換えたら、QSOできた」、などという話は、アマチュア無線ではよく聞いた話だ。Es時はホイップアンテナでもいけるというのは、ホイップアンテナでは一般のアンテナより打ち上げ角が高くなるからだ、とされているが、果たして本当だろうか。
Esの出現する高さは100Km近辺であるから、EsによるQSOでは局間距離が1,500Km程度になると打ち上げ角の理想は5度程度になる。また、従来の模式的な中間地点での一回反射の理論に従えば、ワンホップでの到達距離の限界は約2,000Kmである。この時には、理論的には、地平線、もしくは水平線ぎりぎりに打ち上げ角0度に近い状態で打ち出さねばならないことになる。
しかし、周囲に障害物のない理想空間であるとか、6mくらいの相対的に波長が短い周波数なら未だ分かるが、VHFの入り口近辺の10m、11mの波長で、一般的なアンテナの地上高(屋根の上等)を考えると大地や周囲の構築物の影響もあり、実際には打ち上げ角5度というのはアマチュア局のDX用の打ち上げ角の低いアンテナもしくは、垂直ダイポールを以ってしても達成するのはむずかしい角度である。
しかし、現実には、5度どころか、はるかに打ち上げ角が高いはずのホイップアンテナでも、出力500mWのCB機で交信は十分可能である。当局も2,000Kmには及ばないが、’06運用では沖縄県恩納村-新潟市間1,700KmでQSO(RS51/51)、’07運用でのトウキョウAB505局とのQSO(RS55/55)は距離1,550Kmに達している。しかし、周囲の状況から判断して、経験上実際に5度以下で出された電波が到達しているとは到底思えない。
(2007/6/24の波照間島)
6mにしても、最近欧米と開けた時のQSOは、5エレ八木くらいでわざわざ仰角をつけたほうがよいとも言われている。地上高の高いタワーからとはいえ、水平系の八木で、アンテナ自体に仰角をつけるのだから、打ち上げ角は更に高くなるはずだ。
実際、EsQSOでは、理想の打ち上げ角より上側にバラツキが出る(つまり5度であれば10度前後まで)とのデータがあるが、地上高0m、1/4λにはるかに満たないホイップアンテナでは、バラツキの範囲をはるかに超えていると思われる。ホイップのハンディ機を持って、わざわざ25mのタワーに登って運用する人はいないだろうから、おそらくそのほとんどが地上から運用しているのではないか。とすれば、打ち上げ角は極度に高く、「通常の八木やダイポールではいけなかったのが、ホイップのハンディ機に換えたら、QSOできた」、というのは、大地からの反射の影響を受けるほうが勝ち、というほうが説明が付くような気もする。状況証拠で言うならば、海面、海岸、湿地帯、の反射効率のよい地面、もしくは、だだっ広い障害物のない野原の方がEsでの飛び受けがよいというのは、もはやCBerの定説ではある。また、近くに山が迫っている場合でも、九州や北海道などと全く問題なくEsQSOできてしまう事実も、到来角度がかなり高いことをサポートしている。
1,000Km程度を超えるEsDxでは、やはり、送信側でかなり高く打ち上げられた電波が、中間点よりその地方に相対的に近い側に発生しているEsで散乱、受け側に近い地方でもう一度反射されて、受信しているケースが多いのではないかと考えたくなってしまう。F層での一般的な短波通信での電波は時として、その伝播距離を考えた場合に、マルチホップでは説明が付かないような想定を超える電界強度で入感することがある。UHFのダクト(大気の屈折率の違いによる反射)による遠距離伝播とは全く原理は異なるが、磁気圏にもダクト伝播というのがある。対蹠点効果における夜側の波は、この伝播によることが多いらしいが、我々がEs伝播と称している波も、それに近い伝わり方をするのだろうか。
2007年6月24日の沖縄県波照間島運用では、栃木県佐野市のCB波がFBに入感してきた。この日のコンディションのもう一つの特徴は、こちらにはかなりの本州の局が聞こえているものの、こちらからは、1、2、3すべてのエリアに対して飛ばなかったということである。こちらからは呼べど叫べど通じない、特異ではあるが時々経験する現象ではある。経験上、特に局間距離が1000Kmを超えてくるとこの現象を経験する確率が増えてくる気もする。
栃木県佐野市との局間距離は沿面2,070Kmで、中間地点は鹿児島県の種子島沖合い30Km程の地点になり、最も近い電離層観測ステーションとしては鹿児島県の山川になる。一般的な解釈による波照間-栃木県佐野のワンホップであれば、佐野から27MHzの電波が反射するには、中間地点のEsの臨界周波数は5MHz以上必要のはずだが、山川のこの時のfoEsは、3~4MHzに過ぎなかった。一方、相対的にかなり佐野に近い、国分寺の臨界周波数は8MHz前後で、中レベルのEsが発生している。沖縄側はどうかというと、foEsは山川同様3~4MHzでかなり悪いコンディション(というよりEsは発生していない状況)だった。24日は、この時間だけでなく、終日3~4MHz近辺に口ヒゲのような反射痕があるだけで、昼間は全時間に渡ってEsが全く発生しない、かなり悪いコンディションだったということができる。
臨界周波数(2007/6/23&24、Es) |
6月23日の臨界周波数と主なコンタクト局・時間。他にもたくさん聞こえていた。 1200~1430頃の地域別、時間差による上昇/下降パターンが同一になるのは、よく見られる現象。 (注:周波数はNICTグラフからの当局読み取り値であり、公表値とは±300KHz~1MHz程度の差がある。) |
6月23日 |
6月24日 |
24日は、本州はかなりよいコンディションだったが、沖縄上空は終日ほとんど全くEs発生なし。 沖縄本島にいる場合は、沖縄直上はあまり問題にならないが、沖縄本島より南西に460Km離れ、本島付近が本州との伝播経路になる波照間島では大問題となる。 |
沖縄本島にいた23日は本州とQSOが可能で、沖縄から更に460Km離れた波照間にいる間は、受信OKながら、送信NGという状況だった。23日、24日の本土方面(国分寺、山川)のコンディションは両日とも全般的に絶好調だった点は同じだが、QSOできた23日の沖縄上空のコンディションがとりたててよかったわけではない。23日と24日の違いは何かと言えば、23日は物理的に山川に近く、沖縄上空自体も24日に比べれば相対的に臨界周波数も高かったことから、波照間で運用した24日に比べて当局側に近い地点の臨界周波数が若干高かったであろうと推定できることくらいである。Esの発生は局所性が強いので、3箇所の観測ステーションだけでは、なんとも、参考程度の話にしかならないが....
更なる謎
Esの発生原因は最近はウインドシェア理論が定説となっている。中性大気の上側で西から吹く風と、下側で東側から吹く風がぶつかった際に、境界線上にドリフトして集まるイオンにより電離密度の高い部分が生成するとされる。電離圏の話なので、大気といってももちろん、空気ではなく、酸素や窒素の原子、分子の世界のレベルの話である。電離状態の持続には、メテオ(流星)起源の金属イオンが一役買っているという説もあったが、Esの統計的特徴である、なぜ6月~8月に発生が多いのか、午前10時頃、午後5時頃のピークがあるのか、なぜ中緯度の中でも日本を含む東アジア地区で発生が多いのか、といったことに対する満足のいく説明は、当局の勉強不足だろうが、見たことがない。
Es発生については、アマチュア無線の世界では昔からキングソロモンの法則というのが知られているが、対流圏内における気象現象の話と、大気のない電離圏の話を結びつけるのはナンセンスであるとされてきた。確かにその通りではあるが、我々11mを運用するCBerの実感としては、6月初め頃沖縄から開き始め、梅雨前線とともに北上し、梅雨明けとなる7月終り頃に発生のピークを終えるというのは、対流圏内の気象現象に符合している。また、当局の実感としては、抜けるような高気圧の晴れた日には発生が少なく、前線の通過前後に発生が多いような気もするが、当局だけだろうか。
対流圏と100kmの電離圏を結び付けるパラメーターが何かあるのだろうか?
科学的根拠はなくとも、我々運用者側にとっては、発生の手がかりとさえなれば、それだけで十分ではある。
(写真)3Ch/8Chで「デュアルワッチ」中の様子。