2020運用記
毛無峠
長野県高山村・群馬県嬬恋村



[毛無峠:今も遺る旧鉱山用の索道に、今日も月日が流れていく。]





月は消え、陽は昇る

その索道は、毛無峠を越えて、長野県高山村の方へと降りていく。索道の出発点は小串鉱山だ。正確には旧小串鉱山、1971年に閉山された硫黄鉱山である。1950年台の最盛期には年間2,000トンもの硫黄が産出され、鉱山の集落には約2,000人もの人々が暮らしていたという。もちろん小中学校や診療所もあった。

この近辺で硫黄の産出が始まったのは大正5年(1916年)というから、もう100年以上前の話だ。その4年後には、毛無峠の長野県側である高山村には、硫黄を搬出するための索道が既に敷設されていたらしい。毛無峠の群馬側にある小串鉱山が操業を開始したのは昭和4年(1929年)、そこで産出された硫黄も索道を用いて、毛無峠を越えて高山村に運ばれ、その高山村を経由して、搬出拠点となる須坂まで運びだされていたようだ。鉱山から高山村までは11㎞弱の索道だ。小串鉱山自体は群馬県嬬恋村にあるが、経済的には長野県とのつながりが強かったといわれる所以だ。

移動前に詰め込んだ上記のような付け焼刃の知識は、それだけでいろいろなことを考えさせてくれたが、実際こうして今も残る索道の鉄塔の前に立つと、その足下にはかつて2,000人もの人々が暮らし、小中学校の校庭では元気よく子供たちが遊んでいたであろうことが、まるで嘘のように感じられる。しかし、その人々の記憶は最終的には、どこに行ってしまうのだろうか。

閉山してから50年が経つわけだから、この目の前に建っている鉄塔は、少なくとも50年以上前のものだ。常識的に考えれば、70~80年前にはすでにここにこうして建っていたはずである。そして今日もその向こう側から朝日が上がってきて、さっきまで輝いていた三日月は姿を消していき、新たな一日が始まる。そしてやがて一日が終わるという積み重ねを、閉山してもなお、もう1万8000回以上?繰り返しているということだろうか。

少なくとも、この鉄塔が遺っている限りは、人々はそのふもとにあった集落の記憶を刻み続けることは間違いなさそうだ。

 左:今日も朝日が舞い込む。雲海の向こう側に、榛名山がオレンジ色に染まった。
 中:ガスがかかって一瞬にして霧がすべてを包み込む。
 右:索道の鉄塔は、限りなく青空へと延びていた。




壮大な景色

埼玉県の皇鈴山(みすずやま、東秩父村)で運用されている、トウキョウAB505局さんが語り掛けてくる。なんでも、SVでここから運用されていた局があったらしく、その時QSOをされて話を聞いているうちに、この場所に大変興味を持たれたようだ。いろいろ聞きたいことがあるらしい(笑。
「なんかいい場所らしいですね。車で行けるんですか?」
「峠までダートだって聞きましたけど?」
「よくガスが出て景色が見えないって話ですけど、どうなんですか?」

「峠まで、車で来られますよ。車一台の道ですが舗装されてるんで、全然大丈夫ですよ。小串鉱山っていう昔の鉱山があって、そこまで下りようとするとダードですが、峠から先は通行禁止です。ガスは・・・今朝も一瞬出てましたが、今は全然大丈夫ですね。分水嶺にもなっているんで、峠の稜線の両側から上昇気流が吹き上げてくるんでガスは出やすいと思います。この上昇気流を利用して、ラジコンのグライダーを飛ばしている人が結構いますよ。」・・・当局のAB505局さんへの答えだ(笑。

確かに壮大な景色だ。当局が運用しているロケは、峠(標高1,823m)から10分も登っていない無名峰の頂(標高1.940m)だが、本白根山、榛名山、浅間隠山(あさまかくしやま)、浅間山、四阿山(あずまやさん)などの近場の名だたる山々はもとより、遠くには八ヶ岳や奥多摩、奥秩父の山々も見えている。北側の御飯岳(おめしだけ)方向を除き、360°の絶景だ。特に浅間山が壮大だ。山影と裾野が創り出す造形が、いかにも立体的に迫ってくる。そしてすぐ近く、峠からもすぐに登れる反対側の破風岳(はふだけ、標高1,999m)も美的だ。

ここは峠の東側に落ちた水は太平洋に、西側に落ちた水は日本海に注ぐ、分水嶺でもある。

 左:右端は峠の反対側の破風岳(1,999m)。峠からは、旧小串鉱山へと続く道が見える。峠の左側が群馬県、
   右側が長野県。
 中:運用ロケより、東方向。中央は浅間隠山(1,757m)。左奥は榛名山。
 右:同上、北方向、御飯岳方面へ登山道が続く。



お盆になっても、まだEsは健在だ。ただ、この時期になると、どことなく弱弱しく、QSBも強くなってくる。かごしまMT21局とは、ちょうど2年前のお盆運用、八間山からもQSOしていただいたような・・・。今日は4~6エリア方向か?さかいみなとSR113局もQSBが強いが、比較的長い間聞こえている。ひろしまMS38局さんからもコールをいただくが、こちらも結構QSBが強い。QSBが強くなって聞こえなくなってしまうのではないかと心配になるが、落ちきらないうちにQSOを完了する。

基本的に今日はグランドウェーブねらいだ。この地域からの、埼玉、東京、栃木当たりの関東平野の局との飛び受けの探求は、2年前(=八間山運用時)からの課題なのである。特に今日は埼玉県ねらいか?埼玉は比較的平地から出られる局長さんが多いので、この地域からの飛び受けの「探求」には角度的にちょうどよいのである。しかし、CQへの反応はいまいちだ。それでも、熊谷からは、いつものおおさと59局が声をかけてくれる。鴻巣市からは、さいたまKS73局からもコールをいただく。とうきょうE50 局は移動地未確認だが、東京からか??いずれもこちらには51程度、ひょっとして土曜日の割に運用局が少ないのか?

もっとも、Es局を呼ぶ局長さんもほとんど聞こえてこないので、それともやはり、ロケのせいなのか?かろうじて聞こえてくるのは、サイタマAB847局、ちゅうおうM88局(佃大橋?)、とうきょうMS87局程度か。3局とも平地からと思われるが、41~51程度だ。さいたまFL20局も運用されているようだが、こちらには聞こえてこない。やはりロケ的に、入感レベル的にはこんなものなのか?八間山からの謎解きはまだまだだ(笑。ちなみに、どうでもよいが、「謎」というのは、リンクにある通り、このあたりの同じような標高の運用地で、なぜ渋峠・横手山が異様に飛び受けがいいのか、という謎である(笑。その横手山からはさきほどナガノMA205局がCQを出されていたのだが、応答局は当局のみだった。最強のロケ地なのに更に謎は深まるばかり?(別に謎というほどでもありませんが(笑)


天然のクーラー

 左側が試作スピーカー(笑。
それにしても今日「も」快晴だ。というより、平地の連日の暑さに、涼を求めてここまでやって来たというのが実情である。朝、到着時の気温は15℃、熱帯夜の平地の半分程度だ。直射日光にさらされながら3時間近く運用していても、汗一つ出てくることはない。さらに稜線上とあって、常に涼しい風が適度に吹き上げてくる。まさしく天然のクーラーだ。筑波山の子授け地蔵で運用中のサイタマST165局はなんとか小蔭を見つけて運用しているとのことだが、それでも汗だくのようだ。おそらくもう35℃を超えていることだろう。まったく申し訳ない。

今回の運用もNTS115だ。今日はNTS115のAFの弱点をカバーすべく自作のスピーカーを持参だ。といっても昨日、適当な材料で実験用ににわか仕立てで試作したものだ。今回のコンセプトは、口径が大きめの能率の高いスピーカーを使用することでアンプなしで、ダイナミックレンジを稼ごうというものだ。とにかくNTS115のAFアンプとスピーカーは貧弱すぎる。スピーカー側で能率を稼ぐしかない。

使用したスピーカーの口径は10㎝、カタログスペック上の能率は89dBなのでまあまあだが、中華製なのでどこまで信用できるかは不明だ。振動系の実効質量等の表記もない。CB機でいうと、外見的にはICB-790/790Tのスピーカーのようなイメージだ(笑。エンクロージャーは、にわか仕立てなので、密閉型だ。バスレフにする場合でも、この手のスピーカーはダクトなどまじめに計算して設計するより、カット&トライの方が効率的だ。密閉型の場合は、どのような吸音材をどの程度使うか、エンクロージャーの補強をどのように行うかが要になるが、にわか仕立ての試作品なので、そのあたりも手持ち材料で適当(適切)に・・・(笑。

しかし、使ってみてびっくり、これはいける(爆。見事NTS115の弱点を克服。オーディオソースを基になんとかオーディオも中音量程度なら聞くに堪える程度に音質を調整した甲斐があったか?しかし、こんなでかいものを山の上まで持っていくにはちょっと気が引ける(笑。もっと小口径で、90dB ぐらいのユニットがあれば2発で使いたい(笑。

これまで様々な場所で運用してきたが、運用していて爽快な気分に浸れる場所はそれほど多くはない。基本、無線運用なので、高くて見通しが良い場所でやるわけだが、これほど運用していて気持ちが良い場所は珍しいだろう。

13時近くになると、少し光が西に回り始める。すると破風岳の東斜面が、ビロードのように柔らかく淡い青緑色に輝き始めた。草木の葉が光を微妙に反射させているようだ。運用を終えて鉄塔まで戻ってくると、人の存在などお構いなしに、そしておそらくいつも通り、厳粛と鉄塔は立ち続けていた。

13QSO TNX!!

(´20/8/17)



 




運用データ


 ■運用日時・運用場所:

 
  ・2020年8月15日(土) 9:00~13:10 
     長野県高山村・群馬県嬬恋村境 
      毛無峠 無名峰(標高1,940m)
    

 ■使用&装備リグ:
   CB : NTS115 (西無線研究所)
        ICB-87R (SONY)
 
 ■使用電源
   リチウムイオンポリマー電池11.1V/3.0Ah、乾電池
   



QSO局
13QSO TNX!!  
(敬称略)

2020年8月15日(土) 9:00~13:10 快晴  
かごしまMT21/ 53/51 さいたまKS73/埼玉県鴻巣市 51/52
グンマTK429/群馬県赤城山長七郎岳 55/56 おおさと59/埼玉県熊谷市 51/51
とうきょうE50/ 51/52 ひろしまMS38/ 52/51
みやざきCB001/宮崎県国富町 52/52 ナガノMA205/長野県横手山ドライブイン 57/55
トウキョウAB505/埼玉県東秩父村皇鈴山 52/M5  とちぎ4862/栃木県足利市大岩山 51/51
さいたまBY36/埼玉県横瀬町武甲山山頂  54/53  ハルナPL380/群馬県榛名湖  52/M5 
サイタマST165/茨城県筑波山子授け地蔵  54/54 



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