[陽は沈んでいった: 富士山と鎌倉中心部。左に江ノ島が見える。]



絵になる街

毎年2月の第一週の週末は恒例の鎌倉運用だ。六国見山(’12)、衣張山(’13)、大崎公園(’14)、大平山(’15)、大丸山(’16)ときて、今年で6年連続の運用だ。場所的には微妙に、逗子市や横浜市が混じっているが(笑。

最近、小津安二郎監督の『晩春』を観ていて改めて思ったのは、この鎌倉の街の持つ魅力とは何かということだ。この街が映画やテレビドラマの舞台になったのは、枚挙に暇がない。もともと湘南地区の一角であることが重要な要素となっていることは間違いないが、海がある、古寺がたくさんある、東京に近い・・・などなどがその理由か?それでいて森があり山がある。(石原慎太郎によると、湘南とはもともと、「模」の国の「」でありながら、中国の景勝地湖南地区の湘江になぞらえて「」の字をもってきたものらしい)

鎌倉は京都などと同様、いうまでもなく神社仏閣をたくさん有する古都だが、それでいて湘南の中核のひとつを形成することでモダンな印象を併せ持つ。かつては湘南族の象徴であったり、サザンオールスターズの世界であったり新しいものを先駆的に表現しながら、人々の注目を集めてきた湘南だが、その中でこの街は古い伝統と文化に裏打ちされている。歴史と伝統が、心のふるさと的な安堵感をもたらしているに違いない。

『晩春』では、鎌倉市内の民家にすまいながら、原節子演ずる主人公が、海の近くを颯爽と気持ちよさそうに自転車で走るシーンがでてくる。東京に近い、という意味では父親役の笠智衆とともに横須賀線の「電車」に乗って東京に通うシーンも映し出される。映画は1949年、フツーに電車というところがひとつのポイントだ。つまり蒸気機関車でないところが、都会の近郊であることを暗示する。70年代初期の青春ドラマの傑作?『おれは男だ!』の中では、現千葉県知事森田健作が演ずるところの「小林君」が、湘南の砂浜から夕陽に向かって「ばかやろう」と叫ぶというシーンが度々登場?。当時は観る者もまじめに見ていたはずだが、その後80年代になって青春ドラマを茶化す典型的なシーンとなった。それはともかく、「青春」と海とは切っても切れない関係にあるということだろう。『おれは男だ!』では、奇しくも笠智衆が「小林君」のおじいちゃん役でレギュラー出演していた。

山に近いという意味では、’13年に運用した衣張山から、綾瀬はるか演ずるところの四人姉妹の長姉「幸」と、広瀬すず演ずる腹違いの妹「すず」が、「お父さんのバカ~」、「お母さんのバカ~」・・・と叫んだりする。(観てない人にとっては何のこっちゃ?だが)この衣張山からの景色が、「すず」が以前住んでいた山形県の集落の小高い山の展望台から見た景色と似ているという設定である。昨年の日本アカデミー賞最優秀作品賞の『海街diary』(綾瀬はるか、長澤まさみら主演、’15年公開)のワンシーンである。江ノ電の極楽寺駅が、主人公ら4人姉妹が暮らす民家の最寄り駅の設定にもなっている。この駅や極楽寺は、『おれは男だ!』と同じく日テレ系青春ドラマの流れを汲む『俺たちの朝』でもよく使われた場所でもある。

『江ノ島プリズム』(福士蒼太・本田翼主演、’13年公開)では、過去に時間を巻き戻して親友の命を救おうとする主人公を描く。今は高校生の幼なじみ3人組。重大な持病を抱える主人公の男友達、本当は主人公に思いを寄せる女友達。時間を巻き戻して運命を修正することができた瞬間、三人とも幼いころからのすべての記憶を失ってしまうことは覚悟の上だ。そのことは主人公のみが知っている。背景の七里ガ浜が絵になる、江ノ電鎌倉高校前駅(だと思うが)のホームで彼女を待つ主人公。時間を巻き戻して無事親友の命を救うことに成功した主人公だったが、それと引き換えに、扉が開いて彼女がホームに降り立った瞬間に、本当は相思相愛だったことも、お互いすべての記憶を失って赤の他人になってしまう。ラストに近い山場のシーンだ。

『僕の初恋をキミに捧ぐ』(井上真央主演、’09年公開)でも、ゆっくりと下っていく道路の先、江ノ電の向こうに海が見えるシーンなどが効果的に使われる。江ノ島自体は、’14年の運用記でふれているように、『陽だまりの彼女』(上野樹里主演、’13年公開)の中で、謎の過去を持つ主人公の「本当の」実家の設定だ。

 華頂侯爵邸 

もううろ覚えだが、鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』では、女性主人公が釈迦堂の切り通しに向かって歩いていく、妖艶なシーンが印象的だった。この世のものともあの世のものとも思えない非現実的なあいまいな世界で、それでいてなんともおどろおどろしい人間の執着心のようなものを妖艶に描き出していたように思う。大正から昭和初期?の時代設定に、鎌倉の地はぴったりとはまっていた。この映画も日本アカデミー賞最優秀作品賞だ。

『晩春』では、冒頭、北鎌倉駅から茶会に出席するシーンが出てくるが、なんとはなしに川端康成の小説「千羽鶴」も髣髴とさせる。いずれにしても古都を背景としているからこそ、しっくりとうまくいくシーンでもある。

報国寺から少し南に歩くと、華頂侯爵邸がある。建物の内部には入れないが、一般公開されている。昭和4年(1929年)建築の西洋風の立派な館だ。今は草花はないものの、さすがに侯爵の邸宅とあって、庭園も見事だ。そういえばイングリッシュガーデンを持つ「石窯ガーデンテラス」(⇒外観参照)も確か貴族院議員の邸宅だった洋館を改装したものだったはずだ。「侯爵」とか「貴族院」とか言うとドラマや映画だけの遠い時代のおとぎの物語のように感じるが、この地ではそれが現実の世界としてまさに営まれていたのである。そこがまさしく鎌倉らしいところだ。

今年の運用もまた例によって報国寺からスタートする。石窯ガーデンテラスでケーキセットを、そして運用場所である、「鎌倉市子ども自然ふれあいの森」にある展望広場&パノラマ台へと向かう。

寶戒寺  浄妙寺  報国寺 



展望広場&パノラマ台

 
展望広場は逗子ハイランドと呼ばれる住宅街からほどない距離にある。ちょうど鎌倉市が逗子市と境を接するところである。‘13年に運用した衣張山からは南に歩いて十数分の距離だ。

半月になろうとする月が南東の青空に浮かぶ。空は底なしの青、しかもほぼ無風、絶好の無線日和(笑)だ。87Rのスイッチをオン、冬の一日にしては意外と海外系のノイズがにぎやかだ。CQを出してみると、さっそくサガミFJ1300局より応答がある。いつもの城山湖のようで、数局で合同運用されているらしい。城山湖にはいつも運用局がおられるので、当局のようなアクティビティが低い局にとっては有難い存在だ。

続いて合同運用中のかながわCE47局からお声がかかる。RSは54だが、耳Sではメータよりはるかに強力だ。変調も太くて聞きやすい。どうやらSR-01で試運用中のようである。改めてSR-01を聴く側に回ってみると、やはりなかなかFBな変調である。非常に耳に馴染み易い音だ。CE47局によると、午前中はコンディションが上がっていたようで、沖縄も聞こえていたようである。とすると、最初に8ChでCQを出したのは失敗だったかもしれない(笑。Esスタンバイ局の邪魔をしていたかもしれない。

湘南平には、ちょうどかながわCG61局が到着されたところのようである。見通しだけに56とさすがに強力だ。今日も玩トラをご持参なのだろうか?湘南平からは後から、かながわHK25局ともつながる。

この展望広場は標高は100mにも満たない高さだが、意外と視界は開けており、特に相模湾や伊豆半島方向はバッチリと開けている。今日はくっきりとはいかないが伊豆大島もよく見えている。DCRでは、先ほど静岡県裾野市の遊園地でCM休息中のシズオカNO709局とつながっている。見た目にもいかにも富士山方向にはよく飛びそうで、おそらく見通しなのだろう。

余りの陽気の良さに公園で景色を眺めながらうろうろしていると、今度はベンチに転がっていたDPR-5にしずおかT100局のCQが入感してくる。T100局がグランドウェーブで聞こえてくるのはもう何年ぶりだろうか。しかもDCRでのQSOは初めてのような気もする。今日は伊豆半島の高みにでもおられるのだろうか?

さっそくコールさせていただくとなんと運用場所は沼津市内の常置場所だ。沼津といえば、伊豆半島や箱根などの山々の反対側だ。当然まったくの見通し外である。しかも当局はわずかに1/4λのショートホイップ、T100局も八木ではなくグランドプレーンだ。しかし、T100局によると、常置場所からはなぜか1エリア方向には飛び受けがよいらしい。

『よく川崎や横浜のモービルが入感してくるんですよ。動き始めるとすぐに厳しくなったりするんですがね。』(T100局)

普段から山を飛び越えて、横浜方面とはよく交信されているらしい。今日は当局は「停止」しているので、傘マーク+バー1~2本で安定して沼津まで飛んでいっているようである。やはり山岳回折は奥が深くて面白い。DCRでは富士山等による「反射」の可能性もないわけではないが、しかし今日に関しては、後から11mでさらに面白い回折が待て受けていた。

15:30を過ぎた。相変わらず雲を寄せ付けない太陽も、だいぶ伊豆半島側に回ってきた。展望広場も見晴らしがよく、無線にはなかなかFBな場所なのだが、そろそろ「パノラマ台」に運用場所を移してみる。パノラマ台は、展望広場とは同じ公園内の一角なのだが、こちらは、より一層西側の展望がFBで、鎌倉中心街や江ノ島、相模湾、富士山から伊豆半島の景色がまったく遮るものもなく広がっているのである。丘の上の猫の額ほどの頂に、ベンチがひとつだけ。どちらかというとカップル向けのロケかもしれない。

パノラマ台に移って再びワッチに入ってみると、オキナワAK130局が入感し始める。ピークで51程度、コールするには弱弱しい入感だ。F層反射なのだろうか、いかにも冬の電離層反射を象徴するような入感の仕方だ。弱いQSBを伴い、夏の日のように、決して突然上がりきったりすることはない。

CQを出してみると、トウキョウYU815局、ヨコハマKZ123局とつながる。YU815局は、奥多摩有料道路の浅間尾根駐車場から運用されている。浅間尾根駐車場は西側に山の斜面を抱えているので、もうだいぶ陽が翳って気温も下がってきたようだ。


もう一つの回折

陽も傾き、そろそろ伊豆半島の尾根に接近し始める。空も徐々に色を失って、オレンジ色が加わり始めた。その伊豆半島の十国峠では、しずおかHS46局が運用を開始された。今から運用開始???という感もあるが、RS56と強力だ。反対側の静岡側の平地にもよく飛んでいるようで、まだ運用局が結構おられるようだ。夕日を眺めながらHS46局のQSOをバックグラウンドで聞くともなしに聞いていると、しずおかDD23局がコールされてQSOされているようだ。お~、なんと盟友(笑)DD23局ではないか!!盟友といいつつ、最後にQSOしたのは恒例の沖縄運用だ(爆。つまり昨年の夏である。冬の一日のこの時間、まだ運用されているとは・・・。

ショートメールで確認すると、確かに運用中とのこと。これはもうやるしかない。箱根や伊豆を越えた山岳回折だ。相手は静岡側の平地、どうみてもムリっぽいのだが、さっきバックグラウンドで何気に聞いていたときに、なんとはなしに信号らしきものが聞こえたような「気がした」のである。

チャンネルを指定してもらい、こちらからCQを畳み掛ける。そしてコールサインで直接コールに回る。しばらく反応はないが、とうとう痺れをきらしたのか、DD23局より変調が入ってくる。「キャリアと変調らしきものは確認できるが、ノイズでコピーできない」と言っている。こちらには、RS41~51、オールコピーだ!恐るべき回折だ。後で確認すると、運用場所は富士市の岩本山地区らしい。これだから無線はやめられない。DD23局によると愛鷹山による回折ではないかとのことだが、カシミールでみるとさらに箱根の山々で二重に回折が必要なようである。いずれも標高1,000~1,400m程度の山々だ。

陽は伊豆半島の向こう側に沈んでいった。ちょうど日没とともに、DD23局との最後のQSO?も終わった。薄赤く染まった富士を背景に、鎌倉の街に夜の帳が降り始めた。


14QSO TNX!!
                                               ('17/2)







本日の石窯ガーデンテラス
今日は暖かいので、アイスクリームの盛り合わせとアイスオーレ。いつになくテラス席も賑わいをみせる。



運用データ

■運用日時・運用場所:
 
 ・2017年2月4日(土) 13:07~17:20 
  ・神奈川県鎌倉市子ども自然ふれあいの森
     展望広場・パノラマ台
  

■使用&装備リグ:
  CB : ICB-87R(SONY)
  DCR: IC-DPR5(ICOM)+1/4λホイップ
  
■使用電源
  リチウムイオン電池10.8V/2.6Ahほか


QSO局
14QSO TNX!!  
(敬称略)

2月4日(土) 13:07~17:20  
サガミFJ1300/神奈川県相模原市城山湖 51/51 カナガワCE47/神奈川県相模原市城山湖 54/53
カナガワCG61/神奈川県平塚市湘南平 56/56 カナガワLE111/神奈川県大磯港 52/56
シズオカNO709/静岡県裾野市(DCR) M5/M5 シズオカT100/静岡県沼津市(DCR) B1/B1.5
かながわHK25/神奈川県平塚市湘南平 55/53 トウキョウAR705/町田市小山内裏公園(DCR) B1/B0
トウキョウYU815/東京都檜原村浅間尾根駐車場 53/54  ヨコハマKZ123/横浜市保土ヶ谷区  51/52 
シズオカJG726/静岡県伊東市  51/51 カマクラST103/神奈川県鎌倉市(DCR)  M4/M5 
しずおかHS46/静岡県函南町十国峠  56/57 しずおかDD23/静岡県富士市岩本山  51/31 



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