ジュグラーサイクル

このコラムで黒点サイクルとジュグラーサイクルと呼ばれる景気循環モデルのことに言及したのは昨年('08年)の1月である。

その時は、「景気も黒点もパッとしない」と、書いたのが、もはや、景気は「パッとしない」どころではなく、まさしく危機的状態にある。昨年1月時点では「景気がパッとしない」と言っても、少なくとも上半期(3月期決算会社の4-9月)については、多くの民間企業がまだ勢いに乗って最高益を揚げていた。ところが9月のいわゆるリーマンショック以降、100年に一度とも言われる、過激な景気後退が襲い、世界中が文字通り急坂を転げ落ちるように業績が低迷していった。日本の企業については、さらに円高が追い討ちをかけた。年間5千億円の営業利益を予想していた企業が一転、半年もしない内に数千億円の赤字に下方修正せざるを得ないような事態に陥るくらいだから、かつて経験したことない急降下振りだ。昨年まで2兆円!を超える営業利益を出していたトヨタ自動車といった企業でさえ数千億円にのぼる営業赤字、なんと59年ぶりに最終損益も赤字に陥るという。「100年に一度」と言われるのも、まんざら大袈裟ではない。

未曾有の景気後退の中で、製造業などでは今何をやっているかと言えば、在庫の削減と、修繕費や消耗品、出張旅費等の経費の節減、設備投資の中止や先延ばしで当面の資金のキャッシュアウト(社外流出)を如何に防ぐか、という応急の対策である。気の利いた企業はさらに、どうせ今期決算(3月期の場合)は赤字覚悟であるから、いっそのこと会計上や税務上、今年度内に処理できる損益上のマイナス要因はすべて、期中に処理してしまおうという取り組みをしているところもあるだろう。特に、上半期にはかなりの利益を稼いでいて、こうしたことができる体力のある企業も少なくない。さらに気の利いた企業は、この売り上げ(=製造量)が減少している間に、いかに景気立ち上がり時にタイミングを逸することなく利益を獲得するか、もしくは今まで以上に増大させるか、という秘策を練っていると言われる。たとえば余剰人員を抱える部門から研究開発等にリソースを集中させて、今のうちに商品力の向上を図る体制を整えたり、固定費をそぎ落として、生産レベルが元に復帰し始めた時にはより多くの利益を稼げるよう、損益分岐点を下げておこうという努力をしている会社もある。

新聞報道などによれば、自動車メーカーの在庫削減も3月には完了し、トヨタ自動車などでは、逆に5月に増産を開始するという。(増産と言っても、もちろん前月比の話で、対前年同月比ではマイナスである)


一方、数ある産業の中で自動車販売だけを取ってみれば、中国やインドなどの新興国では、信用収縮による景気低迷の深刻さは欧米ほど根本的ではない。一過性のものかもしれないが、中国では矢継ぎ早の税制対応(新車購入時の税率低減)で新車販売台数はすでに回復の兆しも見える。1月単月の自動車販売台数では、とうとう落ち込みの激しいアメリカを抜き去り世界一になった。こちらも一過性かもしれないが、インドでも、トップメーカーであるスズキの1月の販売台数は、過去最高を記録した。市場全体では1月は対前年6.8%減だが、車種によっては3割以上落ち込んでいる欧米よりは増しだ。

もはや定常状態における自動車市場の数量の「伸び」は、日・米・欧の先進国ではマーケットが飽和状態にあるので、BRICs諸国が支えているといっても過言ではない。つまり、今現在たまたま景気後退で落ち込んでいる日・米・欧の自動車販売レベルがいつ「正常(定常)」に戻るのかということと、これまで年毎に勢いを増してきたBRICs諸国の伸び率が、いつ昨年上期に途切れた時の勢いを取り戻すのかが、自動車市場全体では注目の問題である。米国の自動車不況は、日本などとは違い、信用収縮による資産価値の下落により、車を買いたくても買いたい人がローンを組めないという根深い要因に基づく部分があるが、それでもグローバル全体で見ればマクロに今年下期以降(10月以降)、自動車販売も正常に戻り始めると言う見方をしている人が多い。

もしその通り、自動車産業同様、10月以降経済活動全体が回復軌道に乗り始めたとして、一例だが、仮に設備投資活動をすぐに始めたとしても、効果が現れるのは早くとも半年以上かかる。つまり、来年の今頃(春頃)になれば、順調に景気も回復軌道に乗り出す?という希望的観測がもてる。すると、またしても、寄寓にも黒点数に基づくジュグラーサイクルに乗っかることになるのかもしれない。(景気のサイクル(ジュグラーサイクル)は、常に黒点サイクルと時間的ズレがある。)

水が温まるには、熱を与え始めてから多少の時間がかかる。黒点数がほぼゼロを打ち始めたのが'07の9月頃。リーマンショックは、奇しくもそのちょうど一年後にやってきた。黒点がゼロを打っていた時間がやや長かったような気もするが、今度は1年半の長い谷底を経て、今年4月以降に黒点数(SSN)が上昇し始めたとすれば、1年後の来年(2010年)の春頃には景気回復も着実に上昇気流に乗り始めているはずである(爆)。



                                               ('09/3)

黒点数:近似的にゼロを打ち始めて、早1年半。サイクルの長い谷はいつ明けるのか。

月間平均黒点数
2007年 2008年 2009年
9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月
SSN 2.4 0.9 1.7 10.1 3.4 2.1 9.3 2.9 2.9 3.1 0.5 0.5 1.1 2.9 4.1 0.8 1.5 1.4

直近14日の黒点数。4月はいよいよ立ち上がり始めるか?
2月 3月
23 24 25 26 27 28 1 2 3 4 5 6 7 8
SSN 0 12 14 12 0 0 0 0 0 0 0 12 12 0


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