潮見の森へ
12月の声を聞き、いよいよ本当の冬が近づいてきた。今年最後の山岳運用として、滋賀・三重県境の鈴北岳(標高1,182m、東近江市/員弁市境)をもくろんでみるが、インターネットでみるとアクセスする国道306号が滋賀県側の工事の影響で緊急通行止めになっている。規制状況を桑名建設事務所に確認するが、やはりスタートポイントになる鞍掛峠まではアクセスできないようだ。代わりに冬-春の定番ポイント、岐阜県多治見市潮見の森(472m)にお手軽移動することにする。
よく晴れてはいるものの、遠くはもやがかかっているのかかすんで見えている。北側にいつも美しい姿を見せている御嶽山も、中央アルプスも、今日はまったくかすんで見えない。ミヤマウメモドキ?が、色鮮やかな赤い実を豊かに実らせていた。
駐車場から歩いて30秒の三角点のある「山頂」にバッグをおろし、RJ-580とICB-790Tをまず設置する。9:30に第一声を出すが、当然のようにCBでは応答局がなかった。師走のせわしいこの時期、どうせQRV局はほとんどなく暇だろうと踏んでいたので、今日はアンテナの実験でもしようと、CB機3台、パソ機1台のほかにアマ機1台、6mとHFのワイヤーアンテナ、釣竿を持ち込んでみる。予報では昼前頃から風が強くなるとのことだが、まだ、起きたばかりの子供のように風は穏やかだった。
シャレが通じる世の中なれば...
CBは当分NGとにらみ、さっそく、パーソナルの郡番を「パーになろー!」(82760)にセット、試しにCQを出してみる。前日、掲示板に「パーになろー!」で「待機」する旨書き込んでいたが、「発信」するとは言ってなかったので、まさか、応答局はいないだろう...。やはり応答局はなかったが、続いて27144で出したCQに応答してきたアイチJH316局(固定)の言葉を聞いて驚いた...。「今、パーになろー!で立ち上がってましたよ。」 やはり、世の中少しはシャレが通じないと面白くない。心の中で笑いをこらえながらJH316局に感謝する。(JH316局TNX!)
CBから離れたところで、316局とパーソナルでQSOを続けていると、CB機の方角からなにやら園内放送のように、大音量で、「ブレーク!?」だの「????」だの、QSO中なので何を言ってるのかよく分からないが、意味不明の声が聞こえてくる。しかしこの場所で未だかつて園内放送など一度も聞いたことがない。3エリアの微弱電波を捉えようと、CB機の音量はかなり上げていたので(しかも2台並列)、どうも、当局のCB機から聞こえているらしかったが、山の上なのですぐ近くに移動局などあるはずがない。狐につままれた状態でいると、ひょっこり87Rを手にしたアイチAE126局が姿を現した!!
一杯食わされたか。前日、今日は「中濃地区移動」とだけ書き込んであるのを、掲示板で見ていたが、まさか、こっそり潮見の森に移動してきて、びっくりさせるとは...。やはり、世の中少しはシャレが通じないと面白くない。(AE126局TNX!)
CB機を前に、AE126局と、ひとしきり会話が弾む。米国のサブプライムローン問題が日本の株価に与えている影響や、捩れ国会におけるテロ対策特別措置新法の審議のあり方、2月の日銀の金利改訂予測等について議論....するわけはなく、八重洲のパソ機はイイネェとか、580の飛びうけはどうだ、とか、今度はHSTにあれをオーバーホールに出さんと..などと、より高度な議論が白熱していた。
いちおう芝生公園や薬草園があるが、126局はともかく、ご家族があのような場所を楽しまれて帰られたのだろうか??それが気がかりだ。
770&790Tソニーのリグから聞こえる音は、いたって静かだった。今日は違法局も聞こえない。RJ-580と、時どき3台体制で、ワッチに回る。 |
三角点の脇3からの電波は向かって左からやってくる。北風を防ぐ障害物はないが、ここがベストポジション。 |
KP127局!!
CBの方はやはりお寒い状況で、入感してくるのは、三重県津市経が峰移動の、ミエBN70局だけだった。RS53/52でQSO頂く。経が峰は、比較的孤峰に近いせいか飛びがよいようで、前日土曜日に犬山城を散策していた際も耳S51で聞こえていた。(RJ-410にて)
常時、1台で3Ch専用、もう一台で、5、6Chあたりを、耳を澄ましてワッチし続けるが、その後新しい入感局はない。違法局が1局だけ聞こえていたが、朝からバンド内は水を打ったように静かだった。こういうときは絶好のDX日和なのだが...。
RJ-580からは、フィルターの選択度特性からか、相変わらず特有のサーという高めのノイズが流れていた。逆にソニーのICB-790Tは、スイッチがはいっているのか分からないほど、無言だった。CQは出してみるものの、無反応、手持ち無沙汰にパーソナルのマイクを握ってみると、モービル移動中のアイチDV65局とつながった。これから、六甲狙いで小牧市の白山神社に移動されるという。うかつだったが、あらためて掲示板をみると、確かにAC315局が六甲に、しかも、きょうとKP127局が、舞鶴市の槇山に移動されるではないか!KP127局は、昨晩も槇山に移動されていたはずで、その行動力には全く頭が下がる思いである。
潮見の森は、運用さえすれば、苦しいながらも六甲とは必ずつながる場所で、6mでも交信実績はある。京都府舞鶴市の槇山は、六甲より強く入感する場所なので、KP127局の移動情報を見て、ワッチ&CQにも俄然力が入る。ただ、チャンネル占拠にならぬ程度に、3Chにへばりついてみるが、入感・応答局はない。もう一台でワッチ中の、六甲移動局がよく使う5、6Chにも何も入感はない。ただミエBN70局が下山されるという交信が入ってきたのみだった。
今日の回折波はいったいどうなっているのか??
槙山からの電波は |
以前カシミールで見た限りでは、舞鶴市槙山からの電波は、福井県の千石山(682m)あたりで回折した後、ちょうど山並みが途切れている関が原上空を、山の間をすり抜けるように飛んでくる(はず)。沿面距離は174Kmあるが、槙山は高い山ではなく、標高は483mしかない。 この日は関が原上空は霞んでいたが、南宮山、朝倉山はかすかに見えていた。(下の山名表示右側二つ) 関が原はこの山の裏側になる。 電波が受からないので、せめて写真だけでも。 |
「カシミール3D」による (シミュレーションレンズ=300mm) |
SS465局が入感するも、3へは届かず
11:30、ワッチしていた3Chの奥底から、なごやSS465局のCQが入感してきた。先日初めてつながったばかりの局である。RJ-580と入れ替わりで待機していたICB-770でRS52、すかさず応答、2nd
QSOに期待するも、こちらの電波は残念ながら届いていないようだった。
つながってくれよ、と願いつつCQを出し続けるが、3にも、2にも届かず、応答局は相変わらず皆無だった。そうこうするうちに、KP127局が下山される時間が近づいてくる。
先ほど自宅でつながった、アイチJH316局が、六甲狙いで金華山ドライブウェイまで移動されてきて、白山神社に陣取るDV65局と交信している。ブレークインして、「今日はさっぱり3は聞こえないね~」と、3人で首をかしげることしきりであった。最後までがんばってみるが、とうとうこの日は、残念ながら六甲とも槇山ともつながることはなかった。
どこまで飛ぶの?
途中、展望台下で運用していると、散策中のオジサン(当局のほうがオッサンか)がニコニコしながら寄ってくる。
「どこまで飛ぶの?」
「そうですね、ここからだとせいぜい愛知、三重、岐阜一円くらいですかね。あっ、それと今日は兵庫の六甲山ともできるかもしれません。」
当局がイケメンの若いニイチャンだったら話は別だろうが、だいたい女性(若かろうと、中年だろうと)が近づいてきて、このような質問をすることは120%あり得ない。興味を示すのはまず間違いなく、オジサンである。「どこまで飛ぶのか?」...そう、この携帯電話全盛の時代に、少年の頃の純朴な疑問が、未だに我々CBerを突き動かしているに違いないが、おおよそ、生きていくうえでは全く無意味で無益な行為は、女性の立場からすると、全く関心を惹くことはないのである。
CBの特殊性
無線交信は放送局ではないから、電波は垂れ流しではなく、受信されるだけでは用を為さない。受信して、それに応答するものがいて、初めて交信が成立するものである。応答するものがいるということは、応答してやろうという気持ちがないと成立しない。コミュニケーションの原点である。アマチュア無線は移動運用もあるが、冬は暖かく、夏は涼しい部屋の固定局、20mHのタワーのアンテナから、HFであれば電離層反射による伝播で、居ながらにして地球の裏側の局とも交信可能である。一方、リグ付属のロッドアンテナ+500mWのCB機では、部屋の中から運用できるはずもなく、これで交信するには、わざわざ遠くの山や高台へ移動して交信しなければならない。当局も、わざわざ大台ケ原まで出かけていって、名古屋市内の局と交信したりするわけで、第三者的に見れば、きわめて無意味かつ無益な行為に映るはずである。
なぜ移動するのか-
もちろん自分でQRVするのが目的かもしれないが、交信するために、雨や風や雪の中をわざわざ他人のために移動してくれる人がいる。移動してお相手してやろう、会ってやろうという気持ち(仮にそれが面白半分であっても)だけで、十分熱い思いが伝わってくる。たとえば、誰かがあそこに移動するから、2時間かけて山を登って、交信しようという思いは、rewardのない純朴な気持ちである。そういう相手の信号が、ICB-770の微小なノイズの裏側から、蚊の鳴くような、ただ、はっきりとしたAM変調波が、RS51で聞こえて来たときの喜びは何とも言いようがない。たとえつながらなくとも、わざわざ誰かのために移動しようというその純粋な思いは、当局にとっては何物にも換えがたい価値がある。つながらなくとも、それだけで十分である。
毎年、年末になると流行語大賞等の、さまざまな賞が発表される。2007年の世相を象徴する字(Word of the Year?)は「偽」らしいが、まだこういう偽りのない純粋な思いに触れられる世界もある。
潮見の森運用 |