2011運用記
 
    '11/04 静岡県伊東市
2011運用記




伊豆高原
ゴールデンウイークもすぐそこまで迫ってきた。震災で被害を受けられた方々のことを思うと、とても浮かれた気分にはなれない。しかしその一方で、日本全体がこのまま萎縮してしまうことを望んでいる人もいないはずだ。ある意味、皆が元気を付けていくことも必要だろうという勝手な思いで、今年はじめての移動運用に出てみることにする。

熱海を出て、JR伊東線に入ると入り組んだ山間の隙間から鮮やかに青い海が時々見えてくる。今日は快晴だ。この穏やかに見える海でさえも、時には大勢の人の命を一瞬に呑み込むような脅威になってしまうのだろうか?実際海の近くに来ると思いはさまざまに交錯するが、今はしばしそのことは忘れることにしよう。

伊豆高原には数え切れないほど来ているが、電車で来るのは初めてである。車で海外線を走ってくるのとはまた違った光景が拡がっていた。目的地は静岡県伊東市、伊豆高原の大室山。本日の主な目的はICB-770kaiの試験運用である。昨年暮れに、フクオカAB182 局さんに新技術基準適合試験に通していただいていたのだが、なかなか本格的に運用するチャンスがなかった。
大室山は、東京の中心部からはちょうど100Kmほどの距離で、標高は580mほどしかない。交信相手と距離が近くて、標高が高い場所だと当然ながら容易にQSOが可能だが、カシミールでみると、この高さだと、東京の平地移動局からみて、交信可能限界ぎりぎりのロケになる。わざわざこのロケを選んだのは770kaiの受信限界近辺の特性を見るのにちょうど適しているからである。静岡方面とも、間に伊豆半島の背骨が入るので簡単には交信できないが、海に程近い山なので人工ノイズは少ないと思われた。

リフトでふもとから5分(笑、旧火山である大室山の火口まで上がってくると、背中の北方向にはまだかなり白い部分を残した富士山がよく見えている。その左側の向こうには南アルプスの山々が連なっているのが雪の頂の連続でよく分かる。快晴だが、海から水蒸気が上がっているのか、大島がゆるやかに相模湾に浮かんで見えている。遠く南南東の方向には利島らしきシルエットも消え入るように浮かび上がっていた。

770kaiをベンチにセットしてCQを出してみると、さっそく東京都町田市移動のまちだSG26局より応答を頂く。当局の掲示板の書き込みを見て、待ち受けていただいたようだ(TNX!) SG26局の信号は、東京からにしては意外にも?55でかなり強力だ。ビンビンに入感してくる。当局の信号もM5で届いているようである。SG26局はICB-670使用ということでSメータはないが、耳S55程度で聞こえているといわれている。東京地区の移動局は、もっと入感が厳しいかと思ったのだが、予想外だ(笑。SG26局のロケは標高126m程度の尾根緑道ということで、高さがあるわけではないが、いろいろ話を聞いてみると普段から湘南方向に向かってはかなり相性が良いロケだとのことである。(当局は町田から見て、湘南方向のさらにずっと先のポジションになる)

続いて、湘南海岸方面から、カナガワCG61局(湘南平)、カナガワFK66局よりコールが入ってくる。湘南海岸方面は、間に相模湾が入るだけなのでこちらは更に強力で、お互い57から58で聞こえてくる。後からつながった、湘南平移動のカナガワAC288局によると、やはり(当然か?)湘南地区とは完全な見通しらしく、伊豆半島のこちら側(大室山)とは普段から強力にQSOできるらしい。AC288局とのQSO時は、たまたま持っていた87Rでの交信となったが、メータは9+40dbを振ってきていた。変調音も力強い。当局の信号も+40dB以上振っていたようだ。あいだに海しかないということは、かくも強力なのか?

大室山:火口は一周できる。(約20分) 噴火口内はアーチェリー場になっている。

限界ぎりぎり
CQを続けていると、か細い、ようやく聞き取れるかどうかの信号が31で聞こえてくる。当局の信号に反応していただいているのだが、何度かコールを繰り返してもらうと、呼ばれているのはとうきょうMS25局であるのが分かる。移動地は立川の昭和記念公園である。まさしく想定どおりの限界ぎりぎりの入感だったが、信号を取るのに躍起になって、レファレンスとして用意していた87Rと比較している余裕など当然あろうはずはない(笑。その後MS25局側でリグも交換されたのか?RSは41に上昇する。限界ぎりぎりではあるが、770kaiはしっかりと内容を補足していた。当局からは51で届いていたようである。更にしばらくすると、神奈川方面からヨコハマAD196局にもコールを頂くが、まちだSG26局にQSPで情報を頂くものの、残念ながら信号が取りきれない。その後SG26局とAD196局とで交信されているので、770kaiと87Rの両方で受信に回ってみたが、AD196局についてはどちらも信号は拾うことはできなかった。

引き続き770kaiでバンド内のワッチを続ける。3ChでムサシノAM634局らしき信号が入感してくる。RSは21~31程度だ。時々会話の内容が分かる程度の入感だ。掲示板通りであれば、東京都日野市あたりに移動されているはずだ。87Rで確認してみると信号らしきものを感じる程度で何も分からない。信号があるはず、と分かっているからその差も検知できるが、分かっていなければ、おそらくその存在はつかめなかっただろう。MS25局の時は87Rと比較することはできなかったが、おそらく87Rでは信号の内容を拾えなかったのではないかと思われる。





770kai
770kaiの聞こえ方はどうなのか?通常のトランシーバーはイヤホンにした方が明瞭度が高くなる場合がほとんどだが、770kaiの場合は、スピーカーの方が明瞭度が高くなる。もともとこれは770の持っている良い特性の一つではあるが、770kaiではそれを更に増幅するように良い方向に働かせる鳴り方に改善されている。とにかく限界ポイントにおける信号とノイズの分離がすばらしい。個体差にもよるのかもしれないが、以前の当局の770は限界ポイントでは信号の輪郭が少々ボケていたが、770kaiではそれがかなり明確になっている。この差は意外と大きい。何を言っているのか分からないのと分かるのとでは、全く違うからだ。「ボケていた」といっても本当にボケていたわけではなく、他機種にくらべればはるかに優れた特性を持っていたのだが、kaiはそれを上回るということである。このことは、限界ぎりぎりの信号だけでなく普通の信号に対しても言えることだ。ノイズから切り分けられた信号の輪郭は明瞭だ。これらのことは、コンデンサ類が相当数新品に置き換えられていることも影響しているのかもしれない。(ほかの部品も多数新品に置き換わっている)。
強い信号に対するAGCの効き方も見事だ。メーターのリニアリティも明らかに向上しており、全体として、細部にいたるまでよく計算(設計・調整)し尽くされていることが伺える。モジュレーション時のメーターの振れも、770のように派手に振れることもなく、きわめて適切な変調のかかり方を示している。
飛びについては、当局は全く無頓着なのだが、筑波山移動(距離173Km)のチバDD623局とは、51/53でのQSOである。

TNX!滝知山集合局
「限界ぎりぎり」と言えば、結果的に当局のわがままが、各局にご迷惑をかけてしまったようである。静岡地区の3局さんが、わざわざ交信するために滝知山までやってきて下さった。
まず、シズオカT100局が出てこられる。大室山では朝から西からの風が強く、午後になってからは、ややもすると台風並みの強さで、木の全くないつるつるの火山の火口を吹き抜けていた。滝知山も風が強いようだが、こちらほどではないようだ。
T100局は「交信するために滝知山までやってきました。手を振ったら見えるくらいですよ」と言われている。こちらにマイクが戻ってくる。「今、手を振ってみましたが、見えましたか?」と返してみる(笑。(実際には距離22Kmほど) 59と超強力入感で、770のSメータがここまで振れるのは見たことがなかった気がする。770kaiならではだろうか?変調音はきわめてクリアで、Sが強いので当たり前なのだが、それにしても信号とノイズの落差、突き出た感じはこれまでなかったものだ。シズオカAD301局、シズオカAE86局と、滝知山に集合した局と立て続けにQSOしていただく。風がビュービューと吹きつけており、肩と背中でアンテナを押さえて折れるのを防ぎ、そのために中腰でマイクを握ってPTTを押すという、傍から見るときわめて異様な姿勢でQSOを続けていた。AD301局とは今年の当局の沖縄運用の件や静岡ライセンスフリーの掲示板の話などを、AE86局とは2年前のアイボール会の話などを短いながら会話を楽しみショート目にQSOを終える。
目論見どおり「ぎりぎりの入感場所」を選んだのは良かったが、結局それが災いして、特にこの3局の方々には、大変ご迷惑をおかけすることになってしまった。(申し訳ありません。)

それにしても風の強さは納まるどころか、増すばかり。このまま運用を続けるとアンテナが危険だ。今年の沖縄運用はこの770kaiをメインに使おうと思っているので、ここで折れたりしたら大変なことになる。応力を受けた根元のプラスチック部分は既にギュウギュウと押しつぶされるような不気味な音を立て始めていた。
アンテナをたたんで、トランシーバーを脇に抱えて、火口のハイキング道をうろうろして何とか風が防げる場所を探してみるが、そもそも低木すら皆無なので、そのような場所は当然見つかるはずがない。14時ももう回っていたので、潔く運用継続を諦めて撤収することにする。

各局のおかげで、快晴・絶景の中での運用を堪能することができた。TNX!      ('11/04)



ICB-770kai:背中の濃紺のラベルが独特。

運用データ

運用日:
  2011年4月24日(日) 10:05~14:15
      
運用場所:
  静岡県伊東市
  大室山 (標高約580m)
       
使用リグ:
  ・ICB-770kai (ISHIMARU)
   ICB-87R (SONY)
  パーソナル無線
  ・PR-6 (信和)

    

QSO局
CB、パーソナル

(敬称略)
まちだSG26/東京都町田市尾根緑道 55/M5 かながわCG61/神奈川県平塚市 58/57
かながわFK66/神奈川県湘南海岸 57/53 とうきょうMS25/東京都立川市昭和記念公園 41/51
カナガワZZ211/神奈川県横須賀市 (PR) M5/M5 カナガワAC288/神奈川県平塚市湘南平 59+/59+
ヨコハマFUR98/神奈川県横浜市 (PR) M5/M5 チバDD623/茨城県筑波山 51/53
シズオカT100/静岡県熱海市滝知山 59/59 シズオカAD301/静岡県熱海市滝知山 59/59
しずおかAE86/静岡県熱海市滝知山 59/59
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