[朝、まだ波長の長い光が薄赤く柔らかく照らしだす。中央は峰の茶屋避難小屋]
お地蔵さん
お地蔵さんを見かけると、いつも思い出すのは、柳田国男さんの「遠野物語」の一節だ。遠野物語は文字通り岩手県遠野地方の伝承、説話を集めた、民族学者柳田国男さんの古典だ。
今は手元にないので、うろ覚えだが、こんな話がでてくる。お地蔵さんが、子供たちに縄で括り付けられ、引きずられ、あるいは、倒され転がされたりしながら、子供たちの格好の遊び道具になり、はた目には、ひどい目にあっている。それを気の毒に思った者が、罰当たりな子供たちを諫めてお地蔵さんを助けるのだが、「せっかく子供たちと楽しく遊んでいるのになぜ止めるのだ」、といって逆にお地蔵さんに怒られるといった趣旨の話だ。日本人の精神性を象徴する一コマだ。
この話を読んで以来、お地蔵さんを見かけると、「そうか遊びたいんだよな」、と思うのだが、引きずり回して遊ぶほどの勇気はないので、当局にできるのは、せいぜい写真を撮りながら静かにお地蔵さんと対話を試みることぐらいだ。そして、たいていの場合、お地蔵さんは寒くないようにと、地元の人たちによって毛糸の帽子や、マフラー、上着を着せられていたりするのである。しかも、その前にはお賽銭が供えられていたりする。こちらも日本人とお地蔵さんとの精神的なつながりを象徴するものだ。
南月山(みなみがっさん、標高1,776m)は、那須岳連峰の一番南側に位置する山だ。最高峰であり、那須岳の中心を成す茶臼岳(標高1,915m)からは2Km弱、南にある。山頂から20m?ほどのところには、山頂を見守るようにお地蔵さんが立っている。なぜそこにぽつねんと立っているのか。道祖神的な存在なのか・・・・???もちろん、一緒に「遊ぶ」わけにはいかないが、ただ、茶臼岳を背に立つ凛とした姿は、なかなか絵になっているのですが(笑。
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一緒に遊ぶわけにはいきませんが・・・。右写真、右奥が茶臼岳。 |
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南月山と聞いて、すぐにピンと来る人はいないだろう。いるとすれば、栃木県の地元に近い人か、何度も那須を訪れたことがある人ぐらいか??。無線目的での高さをいうなら茶臼岳や朝日岳などの方が高いので、わざわざここまで歩いてくる必要はないのである。では、なぜ南月山なのか?理由のひとつ目は、いつもの通り、できるだけ手あかのついた場所からは出ないという当局の(どうでもよい)ポリシーのためだが、それ以上の理由は、この南月山が南に向かって那須の平野まで急峻に下っているからだ。つまり、平野側から見ると、北に向かって急峻な坂を登り切った最初の頂上が南月山ということになる。そしてその奥に、北に向かって茶臼岳などがある。
この南に向かって落ちる急斜面が、電波伝搬でいうところの「大地」からの影響が受けにくい、つまり平地におけるタワー的効果を出す・・・・・のではないか、というのが当局の勝手な推測&期待だ(笑。地形図を見て、そんな場所から出たくなるというのは、半ば病的だ(笑。高い山から電波が飛ぶのは、誰でも知っているが、では平地からなぜ電波が飛びにくいかといえば、ビルや住宅などの建物が障害になることは言うまでもないが、低いアンテナ高では地面の影響でフレネルゾーンが小さくなるからだ。また、アンテナから輻射される電波のパターンも大地からの影響を受け易くなる。
そして「南端」であることの意味合いは、もちろん、南の方角にある関東平野の方で多数運用しているであろう、局狙いということだ。
まあ、「大地」がどうだ、とか偉そうなことを言っているやつに限ってろくなやつはいないわけだが(笑、そんなやつとは関係なしに、このロケは結果的に、後述するように意外な、期待以上の飛び受けを実現させてくれるのである。
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左:光と影① 自分の影が地面に映る。
中:光と影② 稜線で昼夜が分かれたよう。南月山山頂は中央の平らなピークのやや左奥、更に進んだ場所にある。(見えない)
右:茶臼岳。登山道のすぐ近くまで、蒸気や硫黄が湧き出ている。中写真は、山腹に見える道筋からこちらに向かって撮影したもの。 |
南から北から、回折三昧
「・・・今日は、実は黒山も移動ロケの候補の一つだったんですが、黒山に行っていたらバッタリ遭遇していましたね~。」(=当局)
話のお相手は、棒の峰(埼玉県飯能市)で運用されているサイタマKM117局さんだ。KM117局は、今日もきっちり高水山(東京都青梅市)から、岩茸石山(同青梅市/奥多摩町)、そして黒山を経由して、棒の峰まで歩いてこられたらしい。黒山は、都県境にある、山頂というより単なる登山道の通過点的存在なのだが、そんな話がよく通じるのはKM117局さんぐらいだ(笑。実際のところ、今日の移動先は山梨県道志村の菜畑山か、黒山か、この南月山か、三択だった。アクセス道などが台風の後遺症で何らかの支障が残っているといけないので、最終的に最も確実な?那須にしたという経緯だ。
KM117局の信号は56だが、メーターのS以上に信号は極めてクリアかつ強力だ。移動場所が棒の峰と聞く前は、すぐ近くで運用されているのではないかと思ったほどだ。
ただそのことが、南側急斜面の「電波塔ライク」な効果をいくぶんかでも受けているものなのかどうか、・・・などということは、もちろん分かるはずもない(笑。今日のQRV開始は7:50分、それ以降お空の方は朝からずっと怪しい天気が続いているのだが、電波の方は最初から静かで落ち着いており、全般的に非常に運用しやすいコンディションなのだ。
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上:山頂には南月山神社がある。
下:山頂三角点で運用。 |
確かに空模様は、非常に怪しい雲行きだ。しかし、なぜか太陽は雲の向こうにシルエット状にず~~っと見えており、時々弱い日差しが降りてくるぐらいだ。逆にそのために、余計に「怪しく」感じられる。空気は冷たく、気温はなかなか上がってこない。体を丸めてワッチしていると、南から?は、赤城山のかながわYS41局を呼びだそうとする、カナガワCB124局が入感してくる。呼びかけに応答はないが、スケジュールを組まれているようなので、こちらから呼ぶのは控えておく。しかし、どこから出られているのか? 静岡県函南町あたりから出られることも多いCB124局なのでロケが気になる。
後から無事つながったところでは、小田原市内の標高100mにも満たない場所らしい。当局のロケはほぼ福島との県境に近いので、小田原とは1エリアを南北に端から端まで突っ切るような格好だが、小田原は西側にずれるので間にはおそらく丹沢山系などが入っているはずだ。それでもこちらにはRS52~53で何も問題なく飛んでくるから不思議だ。
福島の県境に近いので、福島の局長さんが聞こえてくるのは何ら不思議ではない。しかし北からは、福島を飛び越えて、みやぎIT03局のCQが聞こえてくる。51だ。必死に呼びかけるが、向こう側のノイズが高いようでQSOには至らない(=後から無事つながる。石巻市。)。
しかし、こんな場所から宮城が聞こえるか!?、と感心していると、まだまだ聞こえてくる。蔵王移動のヤマガタIT910局、スイタIN04局などは、標高が高いので不思議ではないが、岩沼市の平地(みやぎF3局)からも聞こえてくる。仙台市泉区、泉ヶ岳にはミヤギNE410局が移動されており、問題なくつながる。極め付きは、みやぎCB46局で、宮城県登米市だ。登米市と言えば、仙台や石巻よりさらに北だ。NE410局の泉ヶ岳は比較的標高があると記憶しているが、CB46局のロケは楠田山という150mほどの山らしい。しかもRS52/53である。相手の標高と信号強度から見て、こちらもどこかで回折しているには違いない。
宮城と言っても驚くほど距離があるわけではないが、もともと、北向け用にベスポジを選んでいるわけではないので、これは意外だ。
西の方はといえば、新潟県小千谷市で運用中のにいがたVR27局のCQが聞こえてくる。VR27局も、突然「ポータブル1の局長さん」に呼ばれて、少々驚いているのが伝わってくる。群馬県側に近い新潟の山岳地帯ならいざ知らず、小千谷市といえば新潟でもどちらというと平野部に近く、高い山などもなかったはずだ。びっくりするのも無理もないだろう。こちらも距離がそれほどあるとは思えないが、いったいどういう経路で飛んでいるのか不思議なところだ。いずれにせよ回折しなければ不可能なことは間違いない。
盟友も聞こえてくる(笑
さきほどは、小田原のカナガワCB124局とQSOできたが、今度はいよいよ2エリアも聞こえてくる。しずおかDD23局だ。今日はイベントデーなのでどこかで運用されているだろうとは思っていたが、まさかつながるとは思ってもいなかった。今日は富士山太郎坊(静岡県御殿場市)から出られているようだ。他局との交信を聞いていると、どうも今日の使用リグは例のNASA改の技適機のようだ。このリグの変調音の印象は、小入力時(受信信号強度が微弱な時)でも、変調音の輪郭がすっきり、はっきりしているという点だ。おそらく、単に技適のスプリアス要求値を満足させるだけでなく、それ以上に変調のかけ方に工夫をされているのだと思われる。
太郎坊は、富士山中腹とはいっても、当局側より低い場所なので(たぶん)、おそらく見通し外、こちらも回折波のはずだ。さすがに厳しい入感だが、それでもこちらはRS51でフルコピー、DD23局側ではRS41だ。(当局はSR-01使用) コールが重なる中、RS41でも一発でピックアップしてくれるところはさすがだ。
今日はさすがにイベントデーだけあって、高所移動局も出ている。山梨の北奥千丈にはとうきょうSS44局が、栃木県の女峰山山頂には、しんじゅくIC26局だ。IC26局とはEsではいつもお世話になっているが、グランドウェーブでは初めて?だろうか(笑。「しんじゅく」コールは珍しいので、いつもQSOが印象に残る局長さんの一人だ。
南月山、急峻な南斜面の「電波塔効果」はともかく、いろいろな場所とつながる、なかなか面白いロケではある。
46QSO、各局TNX!! (´19/11/10)
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■運用日時・運用場所:
・2019年11月3日(日) 7:50~12:50
・栃木県那須町 南月山山頂(1,776m)
■使用&装備リグ:
CB : SR-01(サイエンテックス)
ICB-87R(SONY)
■使用電源
・リチウムイオンポリマー電池11.1V/3.0Ahほか
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お地蔵さんと対話 |
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QSO局: 46QSO TNX!!
(敬称略)
2019年11月3日(日) 7:50~12:50 |
ちばBK61/茨城県筑波山 |
55/56 |
はちおうじX25/東京都八王子市城山 |
57/57 |
ツクバAM680/茨城県筑波山中腹 |
52/52 |
スギナミAA530/福島県磐梯吾妻スカイライン |
53/53 |
ふくしまFD55/福島県いわき市屹兎屋山 |
57/57 |
チバTS106/茨城県尺丈山 |
57/57 |
アダチYM240/福島県八溝山 |
58/58 |
ふくしまME71/福島県田村市滝根ウインドファーム |
54/53 |
とちぎTM48/栃木県足利市 |
57/58 |
ねりまTN39/埼玉県所沢市ぶどう峠 |
53/55 |
さいたまUG100/埼玉県入間市桜山展望台 |
54/55 |
ちばMR21/千葉県袖ケ浦 |
53/53 |
とうきょうSS44/山梨県山梨市北奥千丈岳 |
51/51 |
ヤマガタIT910/宮城県蔵王刈田岳 |
51/53 |
さいたまKK007/埼玉県東秩父村 |
52/52 |
かながわCE47/神奈川県相模原市城山湖 |
53/53 |
コオリヤマTM621/福島県郡山市 |
55/53 |
スイタIN046/宮城県蔵王刈田岳 |
51/52 |
チバAR330/千葉県市原市 |
53/51 |
みやぎF3/宮城県岩沼市 |
51/52 |
ミヤギIT03/宮城県石巻市上品山 |
51/51 |
さいたまBB85/栃木県佐野市三毳山 |
54/55 |
サイタマQBM254/埼玉県ときがわ町弓立山 |
56/56 |
さいたまUR2/埼玉県所沢市 |
53/53 |
ツクバKB927/茨城県筑波山男体山 |
59/57 |
とちぎOS36/栃木県宇都宮市羽黒山 |
55/M5 |
ショウナンSA326/神奈川県清川村経ヶ岳 |
54/M5 |
カナガワCB124/神奈川県小田原市 |
52/51 |
サイタマHK118/埼玉県春日部市 |
52/53 |
サイタマA960/埼玉県ときがわ町弓立山 |
56/54 |
ムサシノFM812/埼玉県狭山湖 |
53/54 |
フクシマSP302/福島県磐梯山山頂 |
53/52 |
カナガワCB124/神奈川県小田原市(2回目) |
52/51 |
チバAC532/千葉県我孫子市 |
52/53 |
サイタマKM117/埼玉県飯能市棒ノ峰 |
56/56 |
ミヤギKI529/栃木県鬼怒川河川敷 |
56/59 |
かわごえAK61/埼玉県越生町黒山展望台 |
54/52 |
ソウマYK115/福島県相馬市松川浦 |
51/52 |
みやぎCB46/宮城県登米市楠田山 |
52/53 |
ミヤギNE410/宮城県仙台市泉区泉ヶ岳 |
51/51 |
ニイガタVR27/新潟県小千谷市 |
52/51 |
しずおかDD23/静岡県御殿場市太郎坊 |
51/41 |
しんじゅくIC26/栃木県女峰山山頂 |
59/59 |
ふくしまFB39/福島県会津若松市背炙り山 |
53/51 |
とちぎMH44/栃木県大田原市御亭山 |
56/58 |
いばらきAY48/茨城県茨城町 |
54/55 |
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備考:QSOはすべてSR-01。
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