ICB-R6の残像

ICB-R6の残像









幻影
ICB-R6は幻のトランシーバーである。検定は取ったのに、市場に出なかったとの話だが、どなたかお持ちの方がいるのだろうか?(それとも発売はされたのか?)

CBerの間でもこのR6の情報は極めて乏しい。そこで、このリグについては、いろいろなうわさが先行する。ICB-790の原型(プロトタイプ)ではないか?との話もあるが、ソニーのエアバンド/FM/MWラジオICF-8650のデザインをベースとして開発されていたのでは?などといううわさもある。

「ラジオの中から友が呼ぶ」という名キャッチコピーのR5が、文字通りラジオ機能を持っていただけに、後継の?R6というネーミングが、ラジオ機能を、それも今度はグレードアップしてMWだけでなく、FMなども搭載して登場…などという期待感を持たせ、想像しているだけで楽しい(笑。

8650デザイン説が出てくる背景には、それなりの理由がある。ICF-8650の発売が1979年3月、ICB-R6の検定合格が79年5月14日である。(その後名称変更でICB-M800というソニーのラジオ系?とも相通ずるような名称になっている。以前は総務省のネットのリストにもR6の名称もちゃんと記載されていた。)8650の筐体(フロントパネル以外)はR5や770と酷似(というかほぼ同じ)、12Vの単一電池動作で、おなじみのセンターマイナス。ラジオ用としては似つかわしくない、アンテナ基部(これもR5などと同じ部品?)。ラジオなのにスタンド式となっている点などもR5や770と同一(スタンドも部品が一緒?)だ。8650が、ラジオのマニアの間で「トランシーバーみたいでかっこいい」と言われたりするのも、逆の意味でそのうわさを支持するものなのかもしれない。

ICB-770との比較(1)
アンテナ側サイドビュー。
(下:ICB-770)
(2)
天板側。外部電源はお馴染みのセンターマイナス12V。
(3)
AIR BANDの表記が。エアバンドのチャンネルプリセットボリュームも見える。




ICF-8650
8650のデザインは、トランシーバーを髣髴とさせるせいか、なぜか「業務用」エアバンドラジオなどと表現されることもある。しかしこんなでかいラジオをエアバンド受信の業務用に使う人はいないだろう。(当時は普通の大きさ?)そもそも「エアバンド受信」と結びつく「業務」というのは、なかなか想像がつかない(笑。
せっかくなので、8650のエアバンド部の構成について若干触れておこう。CB機と違ってふたを開けるのは自由だ(何か妙な気がするが)。アンテナ入力→バンドパスフィルターを経たエアバンド信号は、2SC668によるRF1段増幅後、VCOの第1局発と混合、10.7MHzを取り出し、そしてすぐに10.245のクリスタル第2局発と混合、455KHzの中間周波を得る。中間周波は、IF増幅とAGCアンプ、メーターアンプを兼ねるモジュール(一つのIC)で処理後、検波。検波後のAF信号は、スケルチと2SC1633によるプリアンプを経て、CRひとつずつだけの超シンプルなトーンコントロールを経て、AFアンプ→スピーカーでのAF出力となる。

AFアンプはこの時期の各社(及び自作アマ機)のトランシーバー類では定番のNECのμPC575C(ICB-770などと同一)である。8650はトランシーバーではなく、単なるラジオなので、当然変調はかける必要がないので、AFアンプ近辺にはトランスはなく、通常のOTLアンプとして動作する。

第一局発のVCOは、周波数をコントロールするためのボリュームが4つ使われており、一つはメインチューニング用、残りの3つはエアバンド周波数のプリセット用で、レギュレータの電圧をボリュームでコントロールすることによりVCOの周波数を可変(及びプリセット)させている。したがって4つのボリュームはスイッチで切り替えるだけで、完全にパラレルである。なおスケルチは、エアバンド使用時のみ動作するようになっており、逆にトーンコントロールはエアバンド時は動作しないようになっている。
FMとMWはVCOではなく通常のバリコン式なので、メインチューニング用のつまみはエアバンド用のボリュームを動かすのと同時に、ストリングによりバリコンの歯車を物理的に回転させるための二つの役割を持っていることになる。

一方周波数カウンターの方は、局発出力をバッファーアンプを経て1/40と1/5分周、500KHzのクリスタルをレファレンスとして専用ICでカウントしているようだ。

上記のように、エアバンド部の構成はかなりシンプルだ。RF増幅からすぐに455KHzに落とされるので第一IFでの増幅段はない。しかし部屋の中でロッドアンテナだけで聞いていても、航空機からの電波は空からくることもあり、東京アプローチなどを聞いていると、存分にエアバンド受信を楽しむことができる。(当局が住んでいるのは都内でも23区外の市部。ロッドアンテナは根元の基部を入れても80cm程度しかない。)





期待値的妄想
さて、この8650をベースにトランシーバーにするとどうなるのだろうか?回路的にはソニーのトランシーバーでは、790で初めて採用されたPLLに近づいてきている。(エアバンド部だけだが)
構造的には、79年当時の市民ラジオはまだPTTマイクが認可されていなかったので、トランシーバーにするならパネル面にはPTTスイッチが必要なはずだ。単純に思いつくのが、8650の「チャンネル表記部」をPTTスイッチに置き替えることだ。8650のこのパーツは、特定の空港のプリセットした3つのチャンネルの周波数や、「アプローチ」、「タワー」、や「グランド」などを鉛筆で書き込めるようになっているものだ。(書き換えができるように鉛筆書きを勧めている(笑。)


チャンネル表記プレート

この3チャンネルプリセットというアイデアはソニーらしいすぐれものだ。エアバンドでは、一つの空港でも例えば着陸機は、アプローチ管制、タワー管制、グランド管制などの順で、違った周波数で管制を受けるので、順次周波数をプリセットしたボタンを切り替えていけば、管制との交信を追うのが容易になるからである。しかし、トランシーバーとして、エアバンド受信機能がなければ、このリスト表記のパーツ及びスペースは全く不要だ。したがって、例えばナショナルのRJ-580が技適の580DになってPTT付マイクになった時に、フロントパネルから大きなPTTスイッチが消え去ったのとは逆に、8650をCB機に仕立てた場合、この部分をPTTスイッチにすることが可能だったのではないか?メインのチューニングダイヤル部は、770やR5の流れを汲むならば、8チャンネルのロータリースイッチに使えたはずだ。しかしそれだとラジオが聞けなくなるので、いっそのことCB機能の方はPLLに格上げしてプッシュ式の四角いスイッチを8チャンネル分用意し、チューニングダイヤルはFMとMW用のバリコンに使うか?…ここまで来ると、妄想も激しくなる(爆)。

メーター照明スイッチ、LEDの周波数カウンタのスイッチや、バッテリチェックスイッチは、トランシーバーにしてもそのまま使えるだろう(笑)。アンテナ部は、R5などのアンテナをそのまま使えば終わりだし、録音端子は、外部マイク入力端子に転用できる。


ハイソなワクワク感

ここまでの話は、「いや、R6、持ってるよ」、と言う方にはなんの面白みもない話だが、知らぬが仏!の当局などはおおいに想像力を掻き立てられる。それは、やはりこのICF-8650がデザイン的にかっこよく思われるからに他ならない。ソニーでは同じくエアバンド受信機「AIR-7」が、今でも中古市場で高い人気を誇っている。こちらはハンディタイプでかなりコンパクトなサイズだが、いかにもソニーらしい垢抜けたデザインである。
R6はいったいどのようなものだったのか分からないが、あのソニー製品特有の、手に入れた時の「ちょっとだけハイソなワクワク感」を味わえるようなリグだったのだろうか?

                                                     ('11/2)




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