2012運用記
GW一斉OAD
千葉県いすみ市


[太東崎展望所にて]


壮大なる計画?(笑)

5月13日(日)は、いよいよナガノNP152局さんとの、山岳回折実験の日である。この実験は当初、昨年の5月に計画(ただし昨年は延期)していたもので、一年越しの壮大なる計画である。(要は単に1年間サボってただけですが。)昨年5月は決行日に向けて着々と(笑)準備を進めていたものの、前日の天気予報で、当日が雨ということで、泣く泣く延期したものである。

どういう回折実験なのか?

長野県伊那市の伊那スキーリゾート(通称「伊那リ」)と、千葉県は房総半島東端、いすみ市の太東崎(たいとうさき)との間の山岳回折実験である。中央アルプスの山腹沿いの伊那リと、九十九里浜の南端にある、太平洋に面した岬との間で、果たしてつながることがあるのか?NP152局さんによると、一昨年の7月、太東崎で運用されていた千葉の局長さんの信号を伊那リで傍受したとのことである。このことを聞きつけて、NP152局さんに共同実験をお願いした次第である。ただし、この時は近距離Esが発生していた可能性もあり、本当に回折で通じるのかどうか検証するのが今回の目的である。また、今回はついでにデジ簡もトライしてみることにする。

この2点間をカシミってみると、山梨県の滝子山と、甲斐駒ヶ岳の山頂近辺を回折する図式になる。カシミールで見る限りは有り得なくもないように見える回折ルートだが、それは単に図式の話で、常識的には答えは「ノー」である。このルートを500mWの微弱なCB波が回折してくるとは思えないが、何事も実験と検証、そしてチャレンジが重要だ(笑。常識的には考えられない、兵庫県の六甲山山頂と、名古屋市内の当局自宅近くの平地で平気でCBでQSOできるのであるから、山岳回折を侮ってはいけない。それに、例えば、GW一斉OADの時のように、石川県宝立山(ミエAA469/9局)と奈良県大台ヶ原(当局)間の370km超のQSOなども完全な山岳回折波だ。

NP152局とは当初13日の13時から実験スタートということにするが、152局は朝5時くらいからの方が身動きが取り易い(笑)ということで、朝5時スタートとする。早朝のほうがダイナミックレンジも広いし、当局も前夜のうちに移動し、太東崎から、水平線に昇る朝陽を見たかったので、ちょうど好都合である。

左端、伊那リ、右端太東崎


南房総経由で

ということで、どうせ太東崎まで行くのなら、房総半島南端の館山から、ドライブがてら花や海を楽しみながら向かおうということで、土曜日の昼前に特急「さざなみ」で館山に乗り込み、車に乗り換えて、途中各所で短時間QRV&ドライブというスタイルで、房総半島の東岸を一路太東崎に向け北上することにする。南房総は良く知られるとおり、花卉(かき)類の一大生産地であり、「フラワーライン」沿いなどには、さまざまな種類の花畑やフラワーパークなどがあり、花摘みも至る所で楽しめるほどだ。この時期の野外の花としては、もうポピーには遅い時期だが、それでもまだ公園などには色とりどりの花が残っており目を楽しませてくれる。

海岸沿いを走りながら、花畑や道の駅など途中あちこちでQRVを試みてみるが、海外局もおとなしく、バンド内はかなり静かだ。天気が良いせいか、Esの発生もなく、グランドウェーブも含め国内合法局からは全く反応がない。今年はEsがかなり遅いようだ。気のせいか、違法局も2~3年前に比べると最近はずいぶん静かになったような気がする。ちなみに館山市内から太東崎までは、100km程度の距離だが、道の駅が7箇所くらい出てくる(笑。

房総半島の文字通り南端、野島崎でもCQを出してみる。標高のないこんな場所からでは、どうせ応答はないだろうとたかをくくっていると、なんとノイズに半分混じって、合法局がコールしてくれているのが聞こえてくる。ノイズレベルはいつの間にやら上昇していたようでコールサインが聞き取りにくい。何度か聞いてみると、チバCB750局のようである。おそらく千葉県内のどこかからコールしていただいているのだろうが、どうしても移動地だけ取れない。それにしてもこんな海抜0mのところからでもグランドウェーブでつながるのだから不思議だ。さすがに東京周辺は必ず誰かが運用しており、何気にCQを出しても電波を拾ってくれる可能性が高いことを思い知らされる。

転々と短時間QRVを重ねるが、15時を過ぎると、海外局のノイズも徐々に強くなり始める。F層で飛んできているのだろうが、QRMレベルはかなり「安定」して入感してくる。このノイズの出方からすると、今までの経験則から、もっと夕方になればEsもオープンしそうな気配だ。


白い柵

太東崎には18時前に到着。早朝の実験に備えて、日が暮れる前に一度地形を確認しておく必要がある。展望所から見て、灯台がある西方向を除いては360度見通しが利く。特に海側は、断崖絶壁で太平洋の水平線が右と左にどこまでも伸びている。標高は63mほどだが、海水面から一直線の63mなので、海岸線の北も南も、あたりの景色がまるで高い山から眺めているようによく見える。この岬の灯台は、一風変わっており、通常灯台は岬の端にあるのが普通だが、この灯台は展望所より奥まったところ(陸地側)にある。灯台の説明書きによると、断崖の足元が侵食されてきて灯台の地盤としては不向きとなったため、奥に場所を移動したらしい。つまり、元灯台のあった場所が、現在展望場所になっているようである。展望所の一角には、太平洋戦争時代の機銃の台座跡地や、電探(レーダー)が据え付けられていた礎石(コンクリート)が残っている。東から飛来してくる米軍機をここで待ち受けようということだろうか。

展望場所は、白い木柵に囲まれており、そこに陽が傾いてオレンジ色になり始めた光が当たり出し、刹那的な、絶妙な雰囲気を醸し出していた。(=冒頭写真) 最近は、おおよそ美的センスのない、木を模したコンクリート製の無粋なフェンスが多いが、この木製の白い柵は見事に周囲の景観に調和している。さっそく87Rのアンテナを広げてワッチしてみるが、予想に反して海外局もおとなしく、あまりコンディションは上がっていないようだ。太陽が房総半島の地平線に沈み始めると、残っていた幾人かの訪問客が一斉に携帯のカメラを向け始める。確かに美しい夕景だ。明日も晴れ!…に決まっている(笑…そう信じておこう。

房総半島の地平に日は沈んでいく。 宵の明星?(灯台右上)とともに、
灯台も輝きを増し始める。
23時過ぎ、星も灯台も煌々と輝いて
いた。


5月13日実験当日

・・・詳しくはWEBで

とうとう、この「一年がかりの壮大な計画」(大爆)を実行に移す日がやってきた。天気は晴れ…下弦の月と星がでているので。海には漁火のように赤いランプを照らした漁船が、輝点になって見え隠れしている。3:30過ぎにリグの準備をし始めると、東の水平線は既にぼんやり明るくなり始めてくる。3:45分頃になると、もう何も明かりに頼らなくても周囲が良く見え始める。それから一時間近くが経ち、水平線をじっと凝視していると、朝陽が太平洋の向こう側から水平線に顔を覗かせ始める。ついさっきまで、房総の地平線に沈む夕日を眺めていたような気がするのだが、もうぐるっと地球を回ってきたのだろうか。この時期になると、夜はかくも短いものか。

風は微風、気温は10℃ちょっと位だろうか。ダウンは必要だが、手袋はしなくてもなんとか過ごせる感じだ。ひとしきり日出を堪能し、いよいよNP152局との実験に突入だ。日の出前にリグの準備は万端である。ただ今回は、CBが実験そのものなので、GW一斉OADの時のミエAA469局とのデジ簡回折実験のように、CBを連絡用に使うというわけにはいかない。使える連絡手段は有線(携帯)だけだ。5時ちょうど、「準備OK」の合図を、伊那リにおられるはずのNP152局に連絡してみる。

伊那リ側は8Chに若干ノイズがあるらしく、3、4Chがベターとのことで、意表をついて(笑)4Chでいよいよ実験開始だ。当局側87Rは、全Chサーという小さいノイズのみで、期待通り、きわめてダイナミックレンジは広い。実験にはもってこいだ。まずは当局側から発砲してみることにする。伊那リのNP152局に果たして回折波は届くのか??・…「詳しくはWEBで」、と言いたいところだが、ここがWEBではあ~りませんか(爆)。ただし、続きは後述することにする(笑。



海面反射&Es

NP152局との回折実験は5:30には終了した。周囲はもちろんもう真昼のように明るい。もう輝きを停めた灯台は、逆に今度は朝の優しい光に照らし出され始めていた。実験は終了したが、余りに心地が良いので、午前中はしばらくここに居てボケーと頭を空白にして、のんびりと過ごすことを決め込む。(普段から頭は空白ですが…)

それはまだ6時前のことである。ボーっと頭が真っ白になり始めた当局の耳に、デジ簡から合法CB局が突然語りかけてくる。イバラギAB399局のCQのようだ。ずいぶんと早起きの局長さんがおられるものだ。よくも、まあ、イベントデーでもないのにこんな早い時間から運用されているものである。デジ簡は、アンテナマーク1本を振ってくる。

QSOに移るが、果たしてロケはどこだろう…?どうもポータブル7、茨城・福島県境のサンコムロ山の福島側(福島県矢祭町)から運用されているようだ。そこそこ距離もあるようだが、どうやって飛んでくるのだろう?こちらは周囲の見通しがいいとは言え、海抜はたったの60m強しかない。茨城県を丸ごと、加えて千葉県を半分、縦に突き抜けてくる伝播ルートはすぐには頭の中に地図が浮かばないが、直感的に海が少しかかっていそうで、海面反射が加わっていそうだ。おそらくCBでもできそうな感じである。CBに移行してみると、当局の波はなんとか届いているようだが、AB399局の信号がまったく入感してこない(笑。デジ簡に戻って、AB399局は「電池を新品に換えま~す」、ということで、しばし待機、交換後は無事に41/51でつながるが、電池(電圧)よりもむしろ、AB399局側で場所を微妙に変えたことのほうが大きかったようである。今日の実験ではないが、そのあたりが電波伝播の妙である。(後で調べると完全な見通し外。)

空は真っ青、白亜の灯台とそれを囲む目の覚めるような新緑、どこまでも穏やかな海、そしてそよそよと時折吹いてくる風。この場所にいると、これらの色と感触、そして何よりも、適度に下から湧き上がってくる潮騒が調和して、心を癒してくれる。

朝も9時頃になると、余りの心地よさに、とうとう意識を失いはじめる(笑。快晴で、日差しはビビッドだが、決して暑いことはない。ほとんど気を失いかけたところに、今度は、つけっ放しの707の8Chから、突然イワテB73局の渋い変調音が意識を呼び戻す。ややQSBのかかった、明らかにEsの変調音で、どうも、いわてAN26局を呼ばれているようだ。突然コンディションが開けたのか?びーななさんとは久しぶりなので、しばらくしてからCQを出してみると、無事コールをいただく。信号は大変強力で、Sメータはしっかり2を振ってくる。ということは耳Sでは3~5である。B73局は今日は熊本県の上天草におられるようだ。どうも九州方面が開けているようで、しばらくワッチしていると、やまぐちDB52局の信号も重なり合いながら聞こえてくる。Esは安定しておりヤマグチAA123局とも2年振り?にQSO、その後B73局の信号は強くなる一方で、撤収するまで良く聞こえていた。この強さ加減だと、今日は一日中Esが爆発しそうな気配だが、海浜の光景はもう十分満喫できたので、早々に撤収をすることにする。

白亜の灯台に新緑が目に映える 漁船は大海原へと漕ぎ出していった


果たして結果は?

ところでNP152局との実験結果はどうなったのか?時計を朝5時過ぎに戻してみる(笑…。

まずは、4Chで当局側から発砲してみる。果たして応答はあるのか?心ときめく一瞬だ。しかし、それはすぐに不安へと変り始める(笑。発砲すること、1~2分、一応回折のことを考慮し、展望所のあちこちを歩き回りながら、信号を送ってみるが、NP152局からは、何の応答も返ってこない。やはりダメなのか???折悪しく、さっきまで何も信号がなかったはずの4Chに、こんな時に限って朝早くからフィリピン?あたりの局が、スタンバイピーを効かせてS3くらいでかぶり始めてくる。断続的なので、仮にNP152局から返答があっても聞き取れないことはないが、どうにも邪魔だ。

しかし、いつまでやっても応答はない。とうとうNP152局に有線で連絡、結果を確認してみる。応答がないことで答えは想像できたが、やはり「聞こえません~~っ。(苦)」とのこと…・ん~ん~…ダメか?今度は3ChにQSYしてもらい、NP152局側から信号を送ってもらうことにする。87R片手に足早にあちこちを歩き回る…しかし、いくらボリュームを上げても聞こえてくるのは、サーという増幅されたノイズのみだ。1分…、2分…が過ぎる。やはり電波は捉えることができない。残念!!!やはり近距離Esだったのか?その答えはともかく、今度はデジ簡での実験に入ってみる。当局もNP152局も5Wだ。呼び出し15Chで、NP152局を何度も呼び出してみる。つい一週間ちょっと前のGW一斉OADでのイワオさんとの実験を髣髴とさせる。しかし何度呼び出しても、そして待機しても、決してNP152局とはつながることはなかった…。

みたびNP152局と有線でQSO(笑、つながらずに大変残念だが、お互いの健闘を称えあう(爆。確かに結果は残念だが、チャレンジして検証できたことは大満足だ。無念ではあるが、むしろ清清しい気持ちで、一年がかりの「壮大なる実験」を締めくくる(笑。

今日の実験は残念な結果に終わったが、当局にとってはそれも楽しい時間の一つだ。加えて、潮騒を聞きながら、大海原と、岬、そして灯台のある風景を満喫できたのもこうした実験があればこそである。TNX!!!ナガノNP152局!
       (’12/05)




運用データ

 
■運用日時・運用場所:
 
千葉県いすみ市太東崎 (標高63m)
   2012年5月13日(日) 4:55~10:30 
    
■使用&装備リグ:
  CB: ICB-87R (SONY)、ICB-707 (SONY)
  DCR351(デジタル簡易無線):
   ・IC-DPR5 (ICOM)+1/4λホイップ (第一電波)
  

■使用電源
(予備含む)
  ・Li-ion 7.4V/6.4Ah×1 (DCR)、7.4V/1.85Ah×1 (予)
        10.8V/1.6Ah×1 (87R)、10.8V/2.1Ah×1 (707)
  ・ 乾電池 (87R)       

QSO局
(敬称略)
無印=CB、DCR=デジタル簡易無線
5/13:千葉県いすみ市
チバCB750/  (5月12日) 41/51 イバラギAB399/福島県矢祭町三鈷室山 (DCR) M5/M5
イバラギAB399/福島県矢祭町三鈷室山 41/51 イワテB73/6/熊本県上天草市 52/53
ヤマグチAA123/ 52/52 やまぐちDB52/山口県下関市 51/51

ひとつ前の運用記 次の運用記  TOP


© Nagoya YK221