海のつながり

「細かに思へば、江戸の日本橋より唐・阿蘭陀迄境なしの水路也。」と、早くも1700年代の終わりに海防の重要性を説いたのは仙台藩の林子平である。確かに海に境はない。遠くにあるようでいても、境が無いので攻めてこようと思えばいつでも攻めてこられる、ということだろうか。CBの世界では、中国やオランダほど遠くはないが、二つの地点が水でつながっているのか?と思う瞬間がある。

2007年に沖縄の海岸から初めて本格運用した時、紀伊半島紀宝町鵜殿漁港に移動されていた、なごやCE79局と強力につながり、「海でつながっているからですかね~」、などという話をしていた。当時沖縄には常駐局はおらず(ずっと以前は別だが)、わざわざ沖縄に運用しに行って本当に本州などとつながるのだろうかという不安な思いで運用に望んだだけに、文字通りアースのように水のつながりを意識させられたものである。

犬吠埼と和歌山県太地町とも、水でつながっているのか?

5月22日(土)、今年初めて、Es運用にデバッてみることにする。23日(日)は、山岳移動を予定していたが、どうも予報が曇りのち雨ということなので、発想を変えて、天気が良さげな土曜日に「海に移動を」、ということにする。といっても目的の半分以上はEsではなく、「海と潮騒とビールと昼寝」である。Esは出なくても、のんびり海浜でビールを飲んで、気持ちよくゴロっとしようという魂胆である。実際、天気予報はどの時間帯を見ても気持ちよく「晴れ」マークの連続で、天気図をみてもEsが出そうな気配は全く感じられなかった。

銚子電鉄
東京方面からJR外房線で八日市場あたりまでくると、まるでモノクロームの昭和30年代の農村風景の写真を見ているかのように、のどかな田園風景が広がる。Esだけやるならここらへんで十分だな~と思いつつ電車は更に東へと走る。
銚子駅の終着ホームに着くと、その先に、たった一両の銚子電鉄のかわいい電車が止まっている。年季の入った一両編成の電車には、なんとなくホッとさせるものが漂っている。わきあいあいとした車内の電車は、やがて草の生えた廃線跡のような軌道の上を、ガタゴトと犬吠へ向けて走り始めた。

ホームの先に
一両編成の電車が待つ
のんびりと・・・
切符は車内で購入。ワンマンと言いながら
車掌さんが回ってくる。
犬吠駅
当局を残して、電車は出て行った。


犬吠埼は子供の頃から何度も来ているので目新しいことはないのだが、電車で来るのは初めてである。「犬吠」駅から犬吠埼へ向かうのは当局のみ。犬吠埼へ行くのにわざわざ電車で行く人はいないだろう。車が当たり前だ。しかし電車には何物にも代え難いメリットがある。酒を飲めるということである。灯台へ向かう、当局の左手の保冷バッグには銚子駅で調達した缶ビールがしっかり仕込まれていた・・・。


海を見ていた「午前」
浜辺に下りる前に、灯台近くで少しワッチに入ってみることにする。展望の良い広場のベンチにセッティングされた770は、さっそくホニャラ系の海外局の信号を再生し出していた。予想通りチャンネル内は全般的に静かで、ノイズレベルも低く、Esも発生していないようだ。しかし、F層は調子がいいようで、ホニャラ系、韓国系、ロシア系の局が少ないチャンネルをにぎわせている。
問題があるとすれば、灯台近辺からと思しき、レーダー波のような信号に、8Chが1~2分間に10秒ぐらい、S9+で完全にマスクされてしまうことぐらいだろうか。


ワッチといっても、リグはベンチに置き去りにしたまま、例によって、灯台やら長波のアンテナ施設やらをうろうろしていた。崖っぷちのフェンスにひじを掛けて海を見ていると、沖を貨物船が通る。晴れていはいるが、うすーく雲がかかっているので♪♪ソーダ水のな~か~を~、というわけにはいかないが(もっともあれは、横浜山手の「ドルフィン」)海に横たわる空間の包容力が伝わってくる。

岬でしばらく運用後、灯台脇のみやげ物屋でつまみを仕入れる。ビールは持込で、つまみは現地調達とはなかなかいいパターンだと自画自賛しつつ、いよいよ灯台の北側に広がる君ヶ浜へと下りていく。浜辺にレジャーシートで特別ベッドをつくり、リュックを枕代わりにセッティング。もちろん770のセッティングも忘れない。


長波アンテナ
看板の説明によると、ディファレンシャ
ルGPS局。衛星からのGPS信号を補正、
船に正確な位置を知らせる。
295KHz、出力75W
君ヶ浜
岬の北側に広がる。この花の右隣にある
階段を、岬から下りていく。
君ヶ浜から
灯台が映える。


リフレインが叫んでる
プシュっと缶ビールを開けると、砂浜を過ぎる風がいよいよ心地よく感じられる。8ChのAMノイズを聞きながら、ビールとつまみを片手に海を眺めていると、身も心も癒される(爆)。ゴロリと寝転ぶと、太平洋の荒波の潮騒がうるさいくらいだ。これで今日の目標も達成だ(笑)。

海にはサーファーが何人か繰り出している。頭の中では岬の階段を下りる頃から、初夏にもなろうかというのに、なぜか「真冬のサーファー」がリフレインしていた(笑)。
横になって、まどろんでいると、やがてユーミンに代わって?淡路島移動のコウベHL100局のCQが脳裏でこだまし始める(爆)。
どれくらい経ったのか?時間感覚ゼロ。

少し正気に戻ってしばらくワッチしていると、HL100局はフェードダウンしていったが、今度はえひめCA34局の歯切れ良いCQが入感してくる。どうも3エリアが開けてきたようだ。お呼びすると53/55と強力だ。8Chは、堰を切ったようにざわめき出してきた。
 立て膝にアンテナ:
 のんびり寝転がって・・・


体に鞭打って・・・

せっかくなので、ようやく気持ちよくどろりとしてきた体に鞭打ってCQを出すと、今度は8エリア側から、くしろH74局にコールを頂く。こちらも55と強力だ。QSBもほとんどない。3、8エリア同時オープンで、8Chは半分寝ぼけた当局の頭のように混沌とした状態に陥っていく。くしろH74局とはいつでもQSO可能な状態で、しかもS7くらい常に振ってくる。

和歌山県太地町移動のなごやCE79局も55。CE79局によると、イワテB73/7局(北上市)や4エリア移動中のミエAA469/4局、当局(1エリア)らと普通につながってしまうということで、「普段の名古屋近辺のローカルQSOみたいですわ」、と言われている。CE79局はその後もずっと聞こえていた。最後はピーク9+…。79局の信号が聞こえてくるたびに海のことをぼんやり思い出していたが、今日ばかりは「海でつながっている」云々は関係ないようだ(笑)。

今日は特に3エリアが強力だ。京都桂川の河川敷で運用されている、えひめCA34局とも、8Chで当局がCQを出すと、「どうぞ使われてくださいよ~」、といった感じで返ってきて(56/57)、全国的に2局で譲り合っても余り意味はないのだが(爆)、普通のローカルQSOと同じ感覚なのが笑えてしまう。CA34局同様、オオサカRB25局、ハンシンAA727局ともS5からS7で常時QSO可能な状態で、自ずとお互い交互にCQを出すような形になる。

同じく3エリアからは、混信を突き抜けて、聞きなれたキレのある音でコールが入ってくる。その変調音はまさしく、きょうとKP127局の変調音だ。今日は舞鶴に移動されているようである。KP127局にはいつも2エリア近辺でグランドウェーブでお相手いただいているが、Esでつながるのは初めてで、これもまた違ったうれしさがある。いつの間にか、頭の中はすっかり覚醒していた(笑)。

2エリアからは、こちらもローカルさんのアイチDI209局からもコールを頂くが、3チャンネルにQSYしたところでパタッと落ちてしまう。信号が強力なのが今日のEsの特徴だが、落ちる時は、突然死のようにパタッと聞こえなくなってしまうのも特徴的である。

昼前、岬で運用していたときに、広場にはポルトガルのロカ岬との友好記念碑が立っていた。「海終わり、陸始まる。」と刻んである。(有名な詩の一節、「ここに海終わり、地始まる。」)確かに東と西の端で、共通項だ。そのポルトガルとも、オランダ同様、海でつながっている。海を幾度と無く意識させられる運用であった。
                                               ('10/5)





運用データ
運用日:
  2010年5月22日(土)
   
運用場所:
  千葉県銚子市犬吠埼、君ヶ浜 
  
       
使用リグ:
  ICB-770、ICB-87R
  


QSO局(敬称略)

えひめCA34/3/京都府桂川河川敷 53/55 くしろH74/北海道江別市 55/53
なごやCE79/3/和歌山県太地町 55/55 あおもりAA113/青森県 53/53
イワテB73/7/岩手県北上市 53/52 えひめCA34/3/京都府桂川河川敷(2回目) 56/57
トウキョウAD879/7/福島県 56/53 アイチDI209/愛知県名古屋市庄内川(尻きれ) 53/
ひょうご3946 52/56 オオサカRB25/兵庫県 58/54
ハンシンAA727 53/59 なごやCE79/和歌山県太地町(2回目) 58/54
ミエAC130/三重県四日市港 51/53 きょうとKP127/京都府舞鶴市 57/52
えひめCA34/3/京都府桂川河川敷(3回目) 53/53 ソラチJA23/北海道 51/52
ひろしまK79/広島県西広島 55/55


番外編
大誤算
缶ビール4本程度では、到底足りず(笑)。
かといって、岬まで買い足しに行くのも面倒。
見物
入場料200円也
岬南側
銚子電鉄終点、外川方面


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犬吠埼
 '10/05/22: 千葉県銚子市