笹尾根へ

 

もうすぐ茅丸(かやまる)山頂だ。最後の北斜面の登りにかかると、雪の一面に一筋だけ踏み開かれた道に、陽が輝く。九十九折れの道の端には笹の葉が雪から顔をだし、その葉を透かすように明るい光が差し込む。光を受けて反射する、背景の雪の柔らかさが、春が近いことを語りかけているようにも見える。

通称「笹尾根」は、文字通り笹が多い尾根道で、奥多摩の三頭山方面から陣馬山の方まで続く、東京と山梨・神奈川の都県境の尾根筋だ。その尾根筋には槇寄山(標高1,188m)や、丸山(同1,098m)、土俵岳(同1,005m)といった山々が連なる。生籐山(しょうとうさん)もその一つで笹尾根の中でも人気のある山の一つでもある。茅丸はその生籐山から陣馬山方向へ6~7分東にずれた場所にあるピークである。この時期笹尾根の北斜面はまだ一面雪景色だが、反面、雪が全くない南斜面に目を向けると、日当たりのよいその場所にはすでに暖かい春が訪れているかのようだ。

10:35分QRVを開始する。実は一時間近く前から、すでにすぐ近くの三国山(標高960m)や生籐山(同990m)には居たのだが、無線機は取り出さずに周囲の景色やらを楽しんでいた。今日は快晴、三国山や生籐山からも綺麗に富士山が姿を現している。その美しさを堪能するには十二分である。何の変哲もない光景ながら、しばらくの間、その姿に見入らせてしまうというところが富士山という山が持っている力だ。だいたい、この笹尾根に限らずこの周辺の山頂は本来どれも木々に覆われているはずなのだが、それでも富士山を意識してか、南から西斜面については切り開かれている場合が多いのである。無線的には逆に東方向の展望が重要なのだが、この時期は木々の葉が落ちているので、あまり影響は受けなさそうではある。下界の景色もこずえの間から垣間見えている。

今日のQRVポイントは茅丸だ。すぐ隣の生籐山は比較的有名な山で、滞留するハイカーが多く、無線運用は彼らの邪魔になり適切ではない。その点茅丸は無名峰、しかも標高は1,019mと、生籐山や隣接する連行峰、醍醐丸よりわずかに高い。ここには巻道もあり、わざわざ山頂まで上がってくる人も多くはないはずだ。


三国山からの富士
富士山には 常に人々を魅了する
力がある。
南アルプスも見えます
左から聖岳、赤石岳、悪沢岳。
生籐山山頂
ここも富士山方向には開ける。




風と戯れる(笑


R5の電源をオン。ここも例にもれず南面が開けているので、山頂には日光がたっぷりと降り注いでいる。風もほとんどなく絶好の無線日和だ。

土曜日ということもあり、今日も特段QSOには期待していない。しかし、QRV開始10分もしない内に、石垣島のオキナワYC228局が聞こえてくる。YC228局は相変わらずアクティブで、今日も土曜の朝からQRVされているようだ。電離層は比較的コンディションも良いようで、最後は53位まで上がってくる。さいたまUR2局は既に所沢のぶどう峠に移動されているようだ。UR2局には、いつも運用の早い時間からお声掛けをいただいており、感謝に絶えない。しかしUR2局によると、こちら山頂は微風なのだが、下界はかなり強風が吹き荒れているようだ。一般的には山頂の方が風が強いので、今日は逆パターンのようではある。デジ簡ではサイタマAB960局からもコールを頂くが、やはり吉見町(埼玉県)の方も強風のようだ。AB960局さんは素晴らしい観察眼で指摘される・・・『カラスが強風に向かって飛んでいるんですが、位置が変わらないですね。むしろ楽しんでいるようにも見えます・・・。』確かに、賢いカラスならではの「遊び」なのかもしれない。

先週の鎌倉ほどではないが、デジ簡はやはりかなりのチャンネルが埋まっている。複数の空きチャンネルを確保しながら、呼び出しチャンネルでじっと待機していると、なぜかコールサインで直接当局を呼び出してこられる局がおられる。????。これは珍しいパターンだ(笑。デジ簡は最後のQSOから20分近く経っているので、コールサインで直接呼び出されるとびっくりするが、コールされていたのはサイタマSC556局だ。SC556局とは先週鎌倉運用時につながっているが、その時は業務局の混信等もあり、ショートQSOで失礼していた。その時は東京湾を挟んだ千葉県浜金谷方面からのQSOだったが、今日は高尾山近くの大洞山近辺をたまたまハイキングされており、2週続けて当局のコールサインが聞こえてきたのでコールされたらしい。しかもハイキングが主で、無線が従という関係のようなので、一週間後にこんな近場でQSOできるのも何かの偶然かもしれない。

 左:海には船が行き交う(笑。(茅丸山頂直下より)



茅丸から運用するのは今回が初めてだ。奥多摩とは呼べないほど東に属する部類、しかも1,000m超ということで東向きの飛び受けはそこそこだろうと思いきや、意外と真東から東南方向の飛び受けが悪いようにも思える。八王子市内からは久しぶりにとうきょう13131局にコールを頂くが、RSは41/51だ。13時10分過ぎには、誰かがCQに応答されているのをキャッチ、QRZを連発するが、どうしてもピックアップしきれない。後からデジ簡でつながったヨコハマTK301局によると、呼ばれていたのはご本人とのことで横浜市の保土ヶ谷区からだ。もちろん頭の中の地図では横浜方向には陣馬山などがあり山がダブっているイメージがあるので、致し方ない感はあるが、しかしデジ簡が聞こえてくるということはほぼ見通しのはずである。しかも、八王子が41/51というのはどうも解せない。14時前にも、限界に近い聞こえ方で、どなたか呼ばれているのをキャッチ、必死に食らいつくがこちらも残念ながらコールサイン確認ならずだ。

どちらかというとEsよりグランドウェーブに重きを置く当局としては、グランドウェーブを思うようにピックアップできないというのはなんとも情けない思いである。しかも今日に関してはピックアップできなかったのがなんと2局だ・・・無念。せっかくコールしていただいたのに申し訳がない。後から確認すると2局目の方は、どうやら、みやぎFS43/1局さんのようだ。ひょっとしたら茨城県竜ケ崎のあたりから呼んでいただいたのかもしれない。茅丸での運用は初めて、ロケの飛び受けは一度や二度の運用ではよくわからないので、今後さらに試してみる必要はありそうである。





「山」と「丸」

ところで、なぜ「丸」なのか?つまり、なぜ「茅山」ではないのか、ということである。

山名の「丸」については、山岳界では以前から研究されているようで(当局が知らなかっただけと思うが)、とあるウェブサイトの解説によると、マルは古い朝鮮語の山を指す「モリ」、現代語の峰を指す「マル」が語源ではないか、という説が有力らしい。実際、「甲斐地方には600年代後半から大化の改新を挟んで700年代後半にかけ、多くの百済人が集団で移り住んだ」、とのことで、「・・・丸」はこれら渡来人がつけた山の名前ということらしい。そう言われてみるとうっかりしていたが、相模から甲斐にかけて、「丸」とついた山がたくさんある。有名なところでは、檜洞丸、大高丸などだ。この茅丸の近くにも醍醐丸という山がある。「丸」という言葉自体には、「本丸」や「二の丸」といった城郭の内部の一部をさす意味もあるので、大きな山を構成する一つのピークのようなイメージを与えるが、実際は山と同格の意味合いなのかも知れない。

今日は100mWの技適玩トラ、学研のGT-06も持参している。果たしてこのロケで通用するのか?少なくともこの時間まで時々出してきたCQには応答ゼロだ(笑。

5杯目のコーヒーを淹れ終えればそろそろ撤収にかかるべき時刻だ。時計も14時を回ってきた。GT-06を片手に、最後の一杯をのんびり味わいながら待ちかまえていると、今度はおあつらえ向きに、かわさきHA71局のCQが飛んでくる。少なくとも受信は何ら問題ない。これはチャンスだ。HA71局とは30分前にQSOを完了しているが、その時はこちらがR5で出したCQに対する応答だった。今度は、HA71局のCQにGT-06で応戦してみる・・・。

むむむむ~必死に呼びかけ続けるも全く応答がない。何度呼べども、QRZすら返ってこない(笑。無念、撃沈だ。横浜方向はやはり鬼門なのか????

結局、運用中この茅丸を通過していったのは、10人程度、人が少ないだろうとの予想は想定通りだ。木々の関係上、どちらかというと冬向けのロケだが、もう少し運用を重ねてみる必要はありそうだ。


各局TNX!!
                                               ('15/2)

 登山道(標高約590mポイント)より茅丸(中央やや左)
 茅丸から左に向かって、生籐山、三国山。




運用データ
■運用日時・運用場所:
 
 2015年2月14日(土) 10:35~14:30
     茅丸山頂(標高1,019m)
    
 東京都檜原村・神奈川県相模原市(旧藤野町)境

■使用&装備リグ:
  CB : ICB-R5(SONY)、GT-06(学研)
  DCR: IC-DPR5(ICOM)+1/4λホイップ

■使用電源
  ・乾電池、リチウムイオン電池10.8V/1.6Ah


QSO局
15QSO TNX!!  
(敬称略)

2月14日(土)   
オキナワYC228/沖縄県石垣島 51/51 あたご10/東京都八王子市(DCR) M5/M5
サイタマUR2/埼玉県所沢市ぶどう峠 55/57 さいたまSC556/東京都八王子市大洞山(DCR) M5/M5
チバYI124/千葉県富津市鋸山(DCR) M5/M5 とうきょうHM61/東京都羽村市(DCR) M5/M5
トウキョウK767/東京都日野市(DCR) M5/M5 サイタマAB960/埼玉県比企郡吉見町(DCR) M5/M5
さいたまAN71/埼玉県川越市(DCR)  M5/M5  とうきょう13131/東京都八王子市  41/51 
ながのCW47/神奈川県相模原市M(DCR)  M5/M5  かわさきHA71/神奈川県横浜市泉区  54/55 
オオタCK017/東京都大田区(DCR)  M5/M5  ヨコハマTK301/神奈川県横浜市保土ヶ谷区(DCR)  M5/M5 
ヨコハマAA815/神奈川県横浜市泉区  53/54     



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