[15時近くになると光は川面を輝かせ始める]



冬の丘

最後の階段を登っていくと、やがて視線と同じレベルになった山頂の地面の向こうに、独り細い白樺が一本すっくと立ち、その幹や枝を白くちりばめる。空は灰白色に、周りの木々は既に冬枯れで、色はない。森の中を歩いている時は気づかなかったが、さえぎるものも無い丘の上に出てみると、左の頬に当たる風が冷たい。視線を遠く山すそ方向に落とすと、下界の地面をまるで圧迫するかのように、濃淡さまざまに灰色の雲が覆いかぶさる。にもかかわらず、そのすきまから白く輝く光線を地面にまで届かせ、照らし出したそこだけを反射して輝かせているようだった。

丘の上に立つと、風は意外と強い。少しだけ汗をかいた体の温度をすぐに奪っていく。体が冷え切る前にすぐにダウンを着込む必要がありそうだ。気温は2~3℃だろうか。周囲の低木の細い枝枝に当たる風が、時々ヒュウと小さく聞こえる。

リグをベンチに並べた、かじかみそうな手をダウンのポケットに突っ込み、真上を見上げると、時々灰色の雲が解け、部分的に底なしの真っ青な空が広がる。雲の濃灰色とは対照的だ。が、それもせいぜい20~30秒の世界だ。三窪高原は標高1,700mにも満たない高原だが、すでに冬の景色が始まっているようだ。

今日は信州アクティブロールコール(RC)が開催される。チェックイン目的での移動だ。この丘、三窪高原ハンゼノ頭(標高1,681m)には、去年の夏に移動している。場所的には東京の奥多摩方面から、山梨県の塩山に抜ける途中の柳沢峠近くということになる。RCのキー局の位置は長野県富士見町・伊那市の入笠山(標高1,955m)山頂だ。

チェックインにあたりできるだけ東京近郊に近い見通し場所を探ってみると、笹子の近くの清八山や滝子山、三つ峠などがヒットする。笹子まで各駅停車で行くのも面倒だし、三つ峠は行きやすいが、帰りのバスが問題、車で行こうとすれば、中央高速の渋滞に引っかかることは確実なので、奥多摩方面からアクセスできる場所をカシミってみると、三窪高原がヒットする。ここなら駐車場から30分強と超お手ごろだ。更に今回は、行き帰りの都心部の渋滞も避けるため青梅近郊で車を借りることにして、青梅経由で運用ロケに向かってみることにする。


奥多摩湖を過ぎるあたりまでは青空も広がり、ドライブものんびり気分だ。最後まで残ったもみじが湖畔に映えて美しい。しかし、高度を徐々に上げながら標高1,500mほどの峠までやって来ると、さすがに空はどんより雲は白く厚く、すっかり冬の気配だ。峠の茶屋も人影はなく、がらんとした店から漏れる店先の明かりは、開店休業のように寂しげだ。




SC905G7


ハンゼノ頭に着いてすぐ、試しに87Rで今日最初のCQを出してみる。RCは14時からだが、キー局(3局)は既に入笠山山頂に移動されているようで、さっそく、ながのDF73局を皮切りに、ナガノAA601局、ながのDF58局のお三方よりレスポンスが返ってくる。まだ12時前だ・・・。

今日の目玉の一つは久々のパーソナル運用である。RCにはパーソナルの部もあり、ありがたいことにキー局はパーソナルでもチェックインを受け付けてくれるのである。もう来年にも廃止されるパーソナル無線、当局自身もすっかり移動のお供にすることもなくなってしまった。今日のRCは運用できる数少ない貴重なチャンスである。



しかし今日持ち込んだバッテリーはわずかに3.2Ahなので、肝心のRC時に使えなくなるようなことがあってはいけない。大事にしながら、時々点けてはCQを出すというスタイルでの運用だ。リグは信和のG7だ。これまでメインで使用していたハンディー機のPR-6は、すでに昨年(2013年)局免切れとなってしまった。今使えるのは、このG7とPR-900のポータブル機2台のみである。

PTTボタンを押すとピロロン、ピロロンと独特の電子音とともにスピーチチャンネルに移動する。CQを出して受信に移ると、すかさず「プシュッ」とチャンネルが開かれ、どなたかから応答が返ってくる。ヤマナシA905局だ。斜めに刻まれた、G7のシグナルメータが、6つ目の赤色のLEDまでフル点灯する。ノイズも全くなく、極めて無線機的なFM音だ。ピロロンといったパーソナル独特の電子音は相手側のリグでも立ち上がり時に鳴っていたはずだ。

A905局は、RCではパーソナルも運用されると聞いて、久しぶりに車に持ち込んで、キー局とコンタクトできそうな笛吹市方面へモービル移動をかけているところだという。A905局もパーソナル運用を楽しみにされているのか、心なしかウキウキとした雰囲気が伝わってくる。こちらも、久々にパーソナルで出した当てもないCQにすぐさま応答があり、感慨深いものがある。もうこのリグもバンドも、来年の今頃には使えなくなっているのである。この周波数は完全に携帯電話に明け渡される・・・時代の趨勢とはいえ、パーソナル無線が廃止されるというのは全く惜しい限りである。


残された謎

コーヒーを沸かすには、リュックを横倒しにしてストーブの風除けにする必要がある。風は止まることはなく、しかも真冬のように冷たい。二重構造のステンレスカップを両手で丸く包みながら、うさぎのようにコーヒーを飲んでいると後ろの87RからカナガワFJ251局のCQが話しかけてくる。59+の超強力入感だ。「上は風が強くて往生しました。めげて下山しているところです」と先ほどデジ簡で語っていたFJ251局は中腹まで降りてこられたようだ。FJ251局のロケは乾徳山で、山頂でRCまで持ちこたえるというのは強風と寒さで相当に大変なようだった。今は、中腹のその場所からRCを待ち構えられている。幸いこちらではそこまで風は強くない。ただし、ただでさえ夕方のような薄暗い日差しと灰白色の空が寒さを倍増させる。

今日FJ251局とは、DCRそして11mでQSOさせていただいている。ただし、FJ251局の信号という意味では、最初のQSOより更に時計をもどすこと13時前、聞くともなしに聞いていたDCRでの入感が最初だったように思われる。そのときは唐突に「なごやCE73局~」と何度か呼びかける信号が飛び込んできていた。「こんなところでなごや局?????~、だいいち、『なごやCE』と来れば、ふつうは『79』局じゃぁないのかなぁ~(爆、それとも誰か『なごやコール』の方が近くに移動しているのかな?」、などと軽く思って気にも留めずにいたのだが、QSOは成立しなかったようなので呼ばれていた方のコールサインは結局不明である。入感の信号強度やこの日入感してきた運用局から考えるとFJ251局と思われるのだが・・・真相は不明である。しかし後日、三重県の青山高原でDCRを運用されていた、なごやCE79局が確かにコールを受けたということを知り、驚愕する。今から思うと、FJ251局と交信した時に確認しておくべきだった(笑。もしFJ251局だとすると、山梨県乾徳山と三重県青山高原の間にはパスがあるのかもしれない。FJ251局と当局の距離は10km程度の距離だが、CE79局の信号らしきものはこちらにはかすりもしなかった。



4バンド、チェックイン

下:パーソナルRCは0.2Wでチェック
イン。写真はキー局AA601局を受信
中のもの。フルスケだ。

11mでのFJ251局とのQSOを終えしばらくすると、ロールコールが始まった。14:00過ぎ、定刻通りだ。

ロールコールは、11m、特小、DCRが3局のキー局による同時並行で進められる。どのバンドで入感があったのか分かるように、リグを予めあちこちに分散させているので、あちこちでチェックイン受付のコールが同時に入ってくる(笑。おかげで大忙しだ。RCは1時間あり、チェックインという意味では、すべてのバンドに同時にチェックインする必要は無いので、別にあわてる必要はないのだが、しかしチェックインにはタイミングというものもあり、同時並行で進んでいると何とはなしに「大忙し」の気分になってくる。

まずは、AA601局オペによる特小へのチェックインだ。ベンチに適当に放っておいてもキー局の信号は全く問題なく入感してくるが、87Rを吊るした道しるべの横に立ってみると、団子が2個ほど点灯する。3つ目が時々点いたり消えたりするほど強力だ。AA601局側でも団子1個完全点灯のようである。秋オン運用記でも記したが、DJ-R20Dの再生音は結構低めで、今聞いてみると以外と悪くは無い。デジ簡の音は明快だが、やはりやや軽量で、「F3」的な重みがない。この違いは、どうもノイズが少し乗るか乗らないかがミソのようだ。デジタルの方は聞こえるか聞こえないか、文字通りイチゼロのデジタルの世界なので、中間は存在しないのである。

特小のチェックインQSOの間にも、道しるべの87Rからは相変わらず海外のざわめきが誰もいない山頂に響いている。そのノイズに混じるように、キー局ながのDF58局のチェックイン受付がこだましていた。特小に続いて、DF58局オペによる11mでのRCにチェックインだ。午後になってからは一旦静かになったかと思えた海外系のノイズだが、3Chでの受信音を再び高鳴らせている。キー局の信号は決して弱くはないのだが、分離するのが意外と難しいほどだ。

それに比べて、当たり前だが、DCRでのDF73局のロールコール信号は極めて明瞭だ。ただ11m/AMのQSO後なので、余計クリアーに感じるのである。キー局は1W運用でのチェックインを終え、ちょうど5W運用へとチェックイン範囲?を拡げられるところだ。

最後は、AA601局によるパーソナルでのRCだ。ピロロンとG7が立ち上がる。チェックイン受付に最初に応じたA905局の変調がこちらにもFBに入感してくる。A905局は「こんなシステムがなくなってしまうのは残念ですねー」、とキー局に語られる。全く同感である。


RCを終えしばらく丘の上にたたずみ、再び下界を振り返ると、だいぶ西に回った隠れたままの日差しが、今度は遠くの川面をきらきらと輝かせているようだった。運用中この丘には最後まで誰一人姿を現すことはなかった。87Rは気の毒にも相変わらず道しるべに吊るされたままで(笑、RCのままの3Chを律儀に再生し続けていた。しかし冷え切って可愛そうな87Rには南国石垣島からオキナワYC228局のCQがタイミングよく舞い降りてくる。YC228局はこの時期でも活発にQRVされており、普通ならこの季節冬枯れしてしまう11mで、多くのCBerに楽しみを与え続けてくれている立役者だ。「お久しぶりです~」(=実際には11月3日以来だが)とご挨拶して今日のすべての運用を終える。

パーソナルの使用期限は来年(2015年)11月末。その前までにはパーソナル専用の特別のオンエアデーで、最後に全国一斉盛大に盛り上がってみたいものである。


各局TNX!!
                                               ('14/12)





運用データ
■運用日時・運用場所:
 
 2014年11月30日(日) 11:40~15:30
    
 山梨県甲州市三窪高原ハンゼノ頭(標高1,681m)
  
■使用&装備リグ:
  CB: ICB-87R(SONY)
  DCR: IC-DPR5(ICOM)+1/4λホイップ
  パーソナル: SC905G7(信和)+SG900N(ダイヤモンド)
  特小: DJ-R20D(アルインコ)
  アマ機: IC-α6×2(ICOM)、HX-600(Standard)
    
■使用電源
  ・乾電池、リチウムイオン電池10.8V/1.6Ah×2


QSO局
13QSO TNX!!  
(敬称略)

11月30日(日)   
ながのDF73/長野県富士見町入笠山山頂 53/55 ナガノAA601/長野県富士見町入笠山山頂 55/58
ながのDF58/長野県富士見町入笠山山頂 54/56 ナガノAA601/長野県富士見町入笠山山頂(PR) M5/M5
カナガワFJ251/山梨県山梨市乾徳山(DCR) M5/M5 ちば13811/千葉県柏市(DCR) M5/M5
ヤマナシA905/山梨県モービル(PR) M5/M5 カナガワFJ251/山梨県山梨市乾徳山 59+/59+
*ナガノAA601/長野県富士見町入笠山山頂(特小) M5/M5 *ながのDF58/長野県富士見町入笠山山頂 53/56
*ながのDF73/長野県富士見町入笠山山頂(DCR) M5/M5  *ナガノAA601/長野県富士見町入笠山山頂(PR) M5/M5 
オキナワYC228/沖縄県石垣島  52/52     
*:ロールコールQSO、PR:パーソナル無線


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三窪高原
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