[NTR-808とともに顔振峠へ]



宇宙で鍛えた高感度

『使ってみたいトランシーバーの筆頭はソニーのICB-R6、そしてクボタのKA5000とNECのNTR-808だ』、と書いたのは4年前(2010年)の顔振峠の運用記である。4年後の今、そのNTR-808を携えて顔振峠へ向かってみる。4年後の今をその時は想像し得べくもなかった。なんとは無しに感慨深いものがある。

NTR-808は8Ch機としては「幻の・・・」とまではいかないが、希少性が高いトランシーバーだ。アマ機もそうだが、CBでもNECはいまひとつ中途半端な存在だった。808は、「CBマニュアル」や雑誌等では「宇宙で鍛えた高感度」といううたい文句で広告宣伝していたようではあるが、宣伝文句のスケールの割には余り数が出回らなかったようである。ただし、実際NECグループ(808は新日本電気)の宇宙機器事業は、日本の宇宙開発とともに歩んできたのは事実で、通信機器を含む人工衛星バス系(要は人工衛星の基本骨格)や、衛星システム全体の取りまとめ等で数多くの実績がある。例えば、808の検定合格は1979年、このころの人工衛星で行くと、77年に打ち上げられた気象衛星「ひまわり」が既に運用され、気象観測業務にも貢献している頃だ。ひまわりの主契約業者はNEC(衛星バスはヒューズ社)で、それ以外にも、海外の宇宙用地上局通信設備、受信システム等で実績を積んでいる。だから発売された頃に「宇宙で鍛えた高感度」という、宣伝文句が出てくるのは自然の成り行きである。2010年に小惑星からのサンプルリターンを成功させ、日本中を感動の渦に巻き込んだ小惑星探査機「はやぶさ」では、推進系の装置としてイオンエンジンが脚光を浴びたが、無論NECはそのサプライヤーでもある。(「はやぶさ」も、衛星バス及び全体取りまとめはNEC)


NTR-808


このトランシーバになんとなく「宇宙」を感じるとすれば、丸く黒い穴が開いた外観の銀メッキ塗装の部分だろう。宇宙を意識してデザインされたに違いない(笑。このリグは、完全動作品として、最近さる方から譲っていただいたものだ。「まだまだ動きますよ」ということだが、今日はこのリグを使える喜びを噛み締めつつ(爆、実戦投入してその実力のほどを確認してみる。顔振峠での運用はちょうど2年に一回のようなパターンになっており、前回の運用は2012年、今回も移動運用後に味噌おでんで一杯やるのも楽しみのひとつだ(笑。

比較対象として持ち込んだのは87R(新技適)だ。いきなり87Rと比較するのは少々酷なような気もするが、500mW/8Ch機として通用するには、87Rに匹敵する程度の能力がなければ実用にはならない。

10時前、まだ霜柱がたったままの、見晴台に立つ。南側には繁茂したススキの穂が逆光に輝いている。太陽の入射角は低い。空は雲ひとつ無い、スカッとした青空で、少しだけある風がひんやりと少しだけ冷たいが、日光はさんさんと降り注いでいる。

運用パターンとしては、808でCQ、自然の状態で運用局を捕まえるという寸法だ。87Rで交信してから808に切り替えるというのでは余り面白くない。ただし、ただでさえ土日でもない年末の祝日、運用局は少なそうだ。果たして808のCQにレスポンスはあるのか???


こんなトランシーバー

その前に808の概要だ。構成はシングルスーパーのPLL。このリグの最も大きな特徴は、RFゲインのコントロールがついていることだ。数ある合法CB機の中でRFゲインがついているのは、歴史的にも808ぐらいか?ダイヤルを下に回しきったところが最大感度だ。少し上に回すとSが2くらい落ちるが(至近距離での信号)、それ以降はどれだけ回しても感度は聴感上一緒のようだ(笑。RFゲインというより、意図するところはアッテネータの感じかもしれない。もっとも、これは個体差によるものかどうかは不明である。

Sメータは一応付いているが、超小型の丸窓のバッテリーチェックに使うようなメーターだ。これは、実際、送信時には「きゅるっ」とメータが回転して、バッテリーレベルが適正か確認できるようになっている。従って、モジュレーションメーターとしては機能しない造りである。Sメーターとしては、これだけ小さいとSを判読するにはかなり苦労する。もともとは、おまけ程度に付けている感覚なのかもしれない。ただ、付いているのと付いていないのとでは、無線機としての面白さと言う観点では月とスッポンで、付いているだけで操る楽しみを与えてくれる。小さくとも付いていることが非常に重要なのである(笑。

ボリュームは電源スイッチと兼用の一般的なものだが、音量は途中から急上昇するような感じだ。VRのカーブの特性と思われる。電源は12V、電池ボックスは単三型電池が10本入るようになっており、ニッカドでも使える仕様である。ダミー電池が2本付属しており、乾電池の場合は、これを使用して8本での運用となる。外部電源入力はあるが、外部マイク入力はない。内臓マイクは外見からするとダイナミック型のようである。


RFゲイン&スケルチ Sメーター 79年製
珍しくRFゲイン搭載。スケルチはごく
一般的な動作感覚。
送信時はきゅるっと回転して、バッテ
リーレベルを表示(写真の状態)。
製造から35年・・・。



Sメータは重いが・・・

運用開始から10分程度、最初に応答を頂いたのは筑波山中腹移動のサイタマKK007局だ。今日は天気がいいので、筑波山は目視できる。距離は90kmくらいだろうか。Sは56/57・・・うん~しっかりと電波は飛んでいるようだ。受信はどうか?808のSメータは極めて重く、メータ値はようやく6まで振っているような感じだが耳Sでは強力で8~9くらいの感覚だ。実際遠くに見えているのでそのくらいの信号強度でもおかしくない。

KK007局の近くからはフクオカYK426局も出られており、こちらは受信Sが4だ。ただこちらも耳S的には57くらいの感覚である。試しに87Rで聞いてみるとS8である。808はSについては特に7以降がほとんど振ろうとしないので、メータ値+2~3が適正なところのようである。実際、87Rと808で信号感度や聞こえ方に特に差は感じられない。単にメーターの振れの違いだけだ。当然再生音は違うが、87Rは渋めのソニー独特の高域を殺した鳴り方(770程ではないが)であるのに対し、808はややにぎやかな鳴り方だ。ただ、意外にも信号がないときのホワイト系のノイズは87R以上に拾わないので、聞きやすい側面がある。Sが重いリグとしては770が有名で、また、当局所有リグの中では、RJ-270Dも相当に重い。808はひょっとしたらこれら以上かもしれない。

所沢市のぶどう峠からは、ねりまTN39局のCQが飛んでくる。808でお声掛けするともちろん一発で応答がある。808でレポート交換した後、87Rにチェンジ、TN39局さんにお願いして変調の違いをレポートしていただく。808は若干こもり気味、87Rの方は音が高めで相対的にクリアに聞こえるようで、明瞭度では87Rの方が上のようだ。こもり気味・・・よく言うと「シブ目の変調」とのことのようである(笑。気を利かして言い直してくれるTN39局のご配慮がありがたい。

RSは808が56/56で、87Rが59/57である。変調は別として飛びに関しては87Rに殆ど引けを取っていない??ようではある。変調音についてはリグの特性のひとつであり、設計上のことなのでいかんともしがたい。それが無線機の個性につながるのである。

とちぎSA41局は栃木県鹿沼市の富士山(ふじやま)からCQを飛ばされてくる。87Rで聞いていても、かなり厳しいめの入感だ。・・・これは小信号時のQSOを試す絶好のチャンスだ。そのまま87Rでお声がけしてコールバックをピックアップいただき、途中でリグを808に切り替えてみる。すると、808でも87Rと同じような入感具合だ。厳しい目ながら、信号はしっかりと捉えている。変調再生音は低めと高めの違いはあるがレベル的には全く同じだ。飛びについてはリグを交換してもSA41局側でも差は全く感じていないようで、何事もなかったかのように808で無事QSOを完了する。RSは51/51である(87Rでも51)。後で調べると、距離は80kmちょっとだが、見通し外のようで、信号強度が弱かったのはそのせいのようである。


「普通」に使えます(笑


   87Rとのアンテナの長さの
  違いは歴然。
その後も、おおさと59局(埼玉県寄居町)や、サガミFJ1300局(相模原市城山湖)、つくばA3局(つくば市宝篋山)などと「普通に」QSOを完了する。

この手の比較実験では、実験と称しながら、比較対象が余り使い物にならずいつの間にか87RでのQSO一本になってしまうものだが(笑、今回はそのようなことはなく808ですべて「普通に」QSO完了だ。今日は運用局が少なかったが、次回以降は更に限界の飛び受けを試してみる必要がありそうだ。

その他気づいた点としては、偏波面の違いが他のトランシーバーより差が大きく出るようなが気がする??が、バタバタしながら実験していたので、これは気のせいかも知れない。次回更に確認してみる必要がある。もっとも、偏波面が影響するのはグランドウェーブだけで、Esなどの電離層反射波は、偏波面が変化するので、関係はない。

それにしても、個体差もあるのかもしれないが、なかなか使えるリグである。来年は恒例の沖縄運用に持参して、活用してみたいものである


各局TNX!!
                                               ('14/12)




運用データ
■運用日時・運用場所:
 
 2014年12月23日(祝) 9:55~13:50
    
 埼玉県飯能市顔振峠展望台(標高574m)
  
■使用&装備リグ:
  CB : NTR-808(NEC)、ICB-87R(SONY)
  DCR: IC-DPR5(ICOM)+1/4λホイップ
     
■使用電源
  ・乾電池、リチウムイオン電池7.4V/1.85Ah


番外編 
 
左:展望台での運用後、平九郎茶屋で味噌おでんで一杯やりながらワッチしていると、サイタマHK118局と、
  いちかわAB12局が入感。茶屋からは、写真の方向に富士が見える。中写真は朝撮影。
右:峠へ登る山道には、大木の根元の祠に七福神?が遊んでいた(笑。


QSO局
14QSO TNX!!  
(敬称略)

12月23日(祝)   
サイタマKK007/茨城県表筑波 56/57 フクオカYK426/茨城県表筑波 54/51(58/51)
ねりまTN39/埼玉県所沢市ぶどう峠 56/56(59/57) サガミFJ1300/神奈川県相模原市城山湖(DCR) M5/M5
とちぎSA41/栃木県鹿沼市富士山公園(DCR) M5/M5 とちぎSA41/栃木県鹿沼市富士山公園) 51/51(51/51)
サイタマAB847/ 51/51 サガミFJ1300/神奈川県相模原市城山湖 52/52
さいたま1318/埼玉県本庄市M(DCR) M5/M5 ねりまTN39/埼玉県所沢市ぶどう峠(DCR) M5/M5
おおさと59/埼玉県寄居町 52/56  つくばA3/茨城県つくば市宝篋山 55/M5(58/M5) 
サイタマHK118/埼玉県毛呂山町(DCR)  M5/M5  いちかわAB12/千葉県市川市(DCR)  M5/M5 
*11mはすべて808によるQSO。RSのカッコ内は87R。
 サイタマHK118局、いちかわAB12局は顔振峠平九郎茶屋内からQSO。


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顔振峠
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