[水納島。透明感に満ち溢れる。光の加減で水の色は変わっていく。]


上陸

水納島は青空に白い砂浜が映える美しい島である。多良間島の北8kmほどに浮かぶ、宮国さん兄弟と、奥さんだけが住む、人口はたった3人だけのほぼ無人島に近い島である。無論公共の交通機関などはなく、ここに渡るには宮国さんに連絡をとって、船をチャーターしなければならない。(多良間島の漁船でも行ってくれる人もあるらしいが。)

今日、島に渡るのは当局一人だけ。多良間島から20分ほど、文字通り貸切り船となった船が水納島に近づくと、想定していた通りの白く美しい海外線が眼前に広がってくる。

船を降りると「どこ行くの?」と宮国さん。ダイビングでも、シュノーケリングでもない、普段着+ショルダーバッッグの当局を見て不思議に思うのも無理はない。
「いやー、どこでもいいんですよ。無線やりに来たんで。そこらへんの浜辺でのんびりやってます。」
「それじゃ、また3時にここで」、と言って宮国さんは立ち去っていった。

船を降りて一人になってから改めて気づいたことだが、荷物が余りに重すぎて、島の周りの海岸線をあちこち歩き回るというわけにはいかない。持参した飲料水2.2Lや食料などを入れると10Kg近くだ。リュックならともかく、何の変哲もないショルダーバッグである。最も手近と思われる島の南側に広がる砂浜に重い荷物を引きずって移動し、QRVするとしよう。

しかしその前にCDXチェックだ。多良間島を離れる30分ほど前までは、常に2~3局聞こえるほどコンディションは良かったのだが、まだ大丈夫か?87Rをオン、8ChからはミエAC129局のCQやら交信が入感してくるが、このシンプルな信号音は明らかにコンディション下り坂だ。聞こえてくるのはAC129局のQSBを伴った弱めの信号だけである。ただし、このレベルならまだQSOはいけそうだ。水納島からの初QSOを狙って必死にコールを続けるが、こちらからは全く届かない。時間はまだ10時だが、残念ながら今日は既にコンディションの谷に突入してしまったようである。

 
 マイドゥマリ浜にQRV。潮が引いてどこまでも浅くなった水の向こうに多良間島が見える(右)。



寝そべり型QSO

砂浜では707を「寝そべり型QSO」体制で設置、真っ白な砂の上にごろんと寝転びながら8chワッチに入る。

多良間島もそうだが、砂浜はどこまでも遠浅で、水が引いていく午前中は遠くの環礁のようなところで波はほとんどかき消されてしまう。砂浜までやってくる水は湖以上に静かで、波の寄せては引いていくといった音は全く聞こえず、「ザー」という2、300m先で滝が落ちるような小さな連続音が聞こえてくるだけである。

「寝そべり型QSO」体制なので、余りの入感のなさに、11時過ぎからは30分ほどうとうととしてしまった(笑。8Chでは小さなピュルピュル音が聞こえてくるだけである。12時前になってコンディションが上がってきたのか、ようやくカゴシマSS167局がピーク41程度で入感してくる。しかしQSBが強く、落ちている時間が長い。ダメもとでコールを続けるが、やはりこちらからは届かない。こちらの存在が分かっていれば交信はひょっとして可能なのかもしれないのだが・・・。その後30分くらい同じような状況が続くが、やがてSS167局もとうとう落ちてしまった。途中違法が、珍しく8Chで強力に入感していたのだが、残念だ。






せっかく水納島まで移動してきたのだが、全く入感がないまま、どんどんワッチの時間は経過していく。島の滞在時間は5時間だけ。こりゃ今日はもうダメか?寝転んでいても、さすがにこの強力な直射日光の下では、体力の消耗が激しい。心機一転、砂浜のすぐ後ろに広がる茂みの中に身を移しワッチを続けてみる。

13時過ぎに再びSS167局の信号が細々と入感してくる。再び応答してみるが、やはりこちらからの信号は届かないようだ。この程度の入感では、届かないことは分かっているのだが・・・。14時過ぎからは防波堤にロケを移動して、CQをトライし続けるが、結局コンディションは全く上がらないままだ。晴れた空から雲の加減で時折雨粒がぱらついてくる。

15時、とうとうタイムアップだ。トラックの荷台に突立った奥さんを引き連れて宮国さん兄弟が現れる。基本的には当局を多良間島に戻すためだが、奥さんも多良間島に用があるようだ。
「無線いけました?」ちゃきちゃきで明るい奥さんが話しかけてくる。
「いやあ、まあ、結構楽しめました。」(全くつながってはいないのだが、水納島の砂浜で市民ラジオができただけで満足である。)
奥さんが続ける。
「このあいだも、無線をやりに来た人がいましたよ。なんでも帯広から来られたそうで。」

帯広からわざわざ出向いてくるということは、IOTAのサービスか何かだろうか。しかしそれはアマチュア無線には違いない。当局はIOTAやら、DXCCといった類には全く興味はない。この美しい島から無線ができただけで満足なのである。 


 浜辺(左)から、茂みの中(中)に移動、ここでもSS167局を捕捉するが、こちらからは届かず。
15:00タイムアップ、離島。QRVしていたマイドゥマリ浜がどんどん遠ざかっていく。(右)




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(QSO局は最終ページにまとめて掲載しています。)


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